聞き書 和歌山の食事 紀ノ川流域の食より
■ひな祭り
何日も前におひなさまを子どもたちと一緒に出して飾り、寒に搗いたあられを炒ってお供えする。このあられは子どもたちがすぐ食べてしまうので、またほうらく(ほうろく)で炒って供える。
お供えのごちそうは、もち、わかめの巻きずし、小豆ごはん、ぬたなどで、魚はこのしろを焼く。
ひな祭りの前日にもちを搗き、わかめの巻きずしをつくる。ひな祭りのもちは、よむぎもち(よもぎもち)と白いもち、さんひち(くちなし)で黄色に染めたもちをのしておき、菱形に切って三段に重ねる。
巻きずしは、わかめをのりのように干した平わかめで巻く。わかめのつぎ目がしま模様になってきれいで、塩味がきいておいしい。芯に必ずたくあんを入れる。
ひな祭りのころは、麦を植えていない水田にれんげの花が一面に咲き、赤いもうせんを敷いたようだ。ひな祭りの日の昼飯は、ごちそうを持って家族でれんげ地に出かける。それぞれ自分の家の田んぼのれんげ地でお弁当を広げる。ひな祭りがすめば、田植えがすむまで休む日がない。
写真:桃の節句のお供えとごちそう
盆の上:丸もち(よむぎ、白)、菱もち/中の皿:あられ/右の皿:わけぎのぬた/果物:さんぼ(三宝柑)
出典:安藤精一 他編. 日本の食生活全集 30巻『聞き書 和歌山の食事』. 農山漁村文化協会, 1989, p.24-25