聞き書 和歌山の食事 熊野灘の食より
■夕―焼いたさえら、野菜のごった煮、菜飯
秋も深まると、浦はえび網、さえら網、いか釣り、むつ、よらり(くろしびかます)、たちうおなどの夜釣り、大敷と忙しい。
麦はもう買わねばならないが、欠きいもを入れて麦ごはんを炊く。ときには、麦ごはんに大根のすぐり菜を混ぜこんで、菜飯にして食べることもある。
屋敷まわりの菜園では、大根、ねぶか、しゃくしななどの野菜が青々としげり、夕飯のおかずには、焼き魚のだしで野菜のごった煮をよくつくる。
秋のはじめに、棒受網にあじがたくさんのるので、煮つけにしたり、焼いたりしてよく食べるが、秋も深まると、いよいよさえら漁がはじまり、焼いたさえらがたびたび食卓にのぼるようになる。焼きたてのさえらには、みかんの汁をかけて食べる。
夕飯がすむと、「風呂よんでよ」とおたがいに近所でもらい風呂をする。
写真:秋の夕飯
上:すじなの煮もの(焼きさえらのだしで煮る)、大根の三杯酢漬/下:菜飯、あじの煮つけ
出典:安藤精一 他編. 日本の食生活全集 30巻『聞き書 和歌山の食事』. 農山漁村文化協会, 1989, p.242-244