やたら漬

連載日本の食生活全集

2022年12月07日

聞き書  鳥取の食事 因幡山間の食より


この地方独特の漬物で、春から秋にかけて材料を塩漬にしたり干したりして準備し、十二月初旬に漬けこみをする。材料や薬味を次のようにあれこれそろえなければならないので、大変である。
塩漬けの材料は、なす、きゅうり、みょうがの子、さやいんげん、はちこく豆(ふじ豆)、かぼちゃのえぼなり(うらなり)、とうがらしの葉、ずいき(里芋の茎)、たけ(きのこ)。干して使う材料は、大根ときくいも。
薬味は、干したしその実、辛とうがらし、みかんの皮あるいはゆずの皮。
なす、きゅうり、みょうがの子は、荒漬けしてから、もう一度漬け直して本漬にしておく。とうがらしの葉、さやいんげん、はちこく豆は、ゆでて本漬にする。かぼちゃのえぼなりは、適当な大きさに切って湯通しし、一日天日に干して漬けておく。ずいきは一寸五分くらいの長さに切り、皮つきのままでゆでてざるに上げ、そのままで水押し(水分を出す)をしてから本漬にする。ずいきの塩は、浅漬ていどの食いごろの塩に漬ける。たけは、その年にとれたものを使う。ねずみたけ、かぶたけ、うすべにたけ、ひらたけ、ふくろう、なめこなど、いったん湯通しをして、水押しをしてから塩漬にしておく。
大根は小ぶりものがよく、葉を切り落として、洗ったそのままをむしろに広げる。黄色味を帯びて、皮に小じわが寄るていど、約一○日間干してから、漬けこみにかかる。
きくいもは、大根を干す五日から一週間ほど前に掘りあげて、洗ったらそのままむしろに広げて干す。よく干さないと独特のくさみがとれないし、甘みも増してこない。
準備しておいた材料の塩漬をざるに上げて薬味を混ぜ合わせ、大根、きくいも、塩漬材料とを交互に漬けこむ。水が上がるまでは強い重石をかけ、水が上がったら軽くして、約一か月たったら食べはじめる。
土師村の綾木家の二斗桶分の目安量は、大根はむしろに広げて三分の二くらい、きくいもはむしろに広げて半分くらい、ずいきは漬けたもので二斗桶半分くらい、辛とうがらしの粉はさかずき三杯くらい。これにその他の塩漬材料を混ぜるが、塩漬材料の量で塩気の調子をとる。
ちょうど正月ころから食べはじめ、三月末か四月上旬ころまで食べる。ずいきの入らない漬物は「やたら漬」とはいわない。

 

出典:福士俊一 他編. 日本の食生活全集 31巻『聞き書 鳥取の食事』. 農山漁村文化協会, 1991, p.133-134

関連書籍詳細

日本の食生活全集31『聞き書 鳥取の食事』

福士俊一 他編
定価3,850円 (税込)
ISBN:9784540910036
発行日:1991/10
出版:農山漁村文化協会(農文協)
判型/頁数:A5 382頁

日本海側有数の漁港=賀路・境港のある鳥取県は、魚、えび、かに、貝と海の幸が多彩。磯場の夏泊海岸の海女漁は豊臣時代からの歴史をほこる。因幡の山間、伯耆富士=大山の山麓には山の幸たっぷりの食生活が。
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