聞き書 和歌山の食事 和歌浦沿岸の食より
■乗り初め
正月二日は、船主の家に乗り子、親せきが集まって、その年の計画を立てる。一隻の船に四、五人乗ることになり、帆を張る人、櫓をこぐ人など役割と人数を決めるが、「舟底一枚下は地獄」の漁業であるから、乗り子は家族同様の間柄になっている。船主と乗り子は船にかけだいと小豆ごはん、お神酒を供え、新しい年の豊漁と航海の安全を祈る。かけだいは、生きのよい二ひきのたいの胸びれと尾、または口にそれぞれ紅白の糸をかけ、向かい合わせて盆にのせたもので、船主が前の晩につくっておく。
船主の家での祝いの宴には、小豆ごはんと、ぶり、はまち、もんごいか、しびこなどが並ぶ。それに、れんこん、ごぼう、かまぼこ、はもの皮巻き、寒天などを膳に盛り合わせ、「固めのさかずき」をする。お酒がまわるほどに安来節や磯節、伊勢音頭がにぎやかに歌われ、夜おそくまで乗り初めの宴が続く。
宴が終わって帰るときは、大鉢にいっぱい入れたぜんざいが乗り子の家族へのおみやげになる。翌日は「ごっとうさん(ごちそうさん)」と大鉢を返す。ぜんざいはのどが痛いくらい砂糖を入れるのでおいしい。おすしをつくる家もある。
写真:乗り初めのごちそう
大皿はかけだい、中皿は煮ものと寒天、はもの皮巻き、かまぼこ。さばの刺身、ぜんざい、小豆ごはんが並び、これに魚ずしや巻きずしがつく。
出典:安藤精一 他編. 日本の食生活全集 30巻『聞き書 和歌山の食事』. 農山漁村文化協会, 1989, p.90-94