聞き書 和歌山の食事 熊野灘の食より
■昼――浜では麦ごはんに焼きさえら、蒸しいも
冬漁は、いか釣り漁、さえら網漁、えび網漁のいずれも夜の漁なので、男衆は昼は浜で網の整理をしたり、道具類の用意をする。浜で食べる弁当は、わっぱに詰めた麦ごはん、梅干し、こんこ、焼きさえら、それに蒸しいもである。焚き火を焚き、昨日の漁や潮目のことなどを話しながら、ときには焼きいもを食べたりするが、日短なのでなるべく早く用意を終え、家へ帰ってひと寝入りする。
女衆もこの時季、さえらの開きづくり、塩漬け、干いかづくりなど、魚加工の賃仕事に浜へ出ることが多いが、漁のひまをみては、さつまいもをほしごにしたり、大根を切干しにしたり、こんこを漬けたりする。
小春日和には畑へ出て、一寸ばかりにのびた麦を踏み、ときには山へよどら(柴)をとりに行く。雨の日にはわらじづくりの仕事もある。
一日中忙しく、父ちゃんのどんざ(綿入れ)や子どものねじ(ねじりそで)をつくったり、衣類の冬ごしらえをしたりするのは、たいてい夜なべ仕事になる。
写真:冬の浜での昼飯
左2つ:わっぱに詰めた麦ごはん、おかずは塩焼きさえらと梅干し、こんこ/右のざる:蒸しいも
出典:安藤精一 他編. 日本の食生活全集 30巻『聞き書 和歌山の食事』. 農山漁村文化協会, 1989, p.248-250