聞き書 広島の食事 芸北山間の食より
春のふだんの食事は、冬とほぼ同様のかで飯や麦飯に味噌汁で、汁の中にくず米粉をしとねただんごを入れるのもだいたい同じである。
四月中旬すぎころから、食事は一日四回から五回にふえ、だんごやてんこもちよりもごはんの割合が多くなる。一日五度食は秋の庭上げまでつづく。
一日五度食となると、朝食前に朝茶、昼食と夕食の中間にはしま(箸間)をとる。
■朝――麦飯、味噌汁、焼き漬け菜
春とはいえ気温のうえでは真冬を思わせる朝であるが、夜明けは早くなる。
朝食の味噌汁の実は大根、にんじん、じゃがいも、ごくまれにわかめなどがあり、谷間や小川の縁に芽を出しているせりが香りを添える。
おかずは焼き漬け菜をよくつくる。いろりの灰の上に割れた鉄なべなどの破片を置き、その上に菜っぱ類の漬物をのせて焼く。こうすると、漬物に香ばしい味が出て食欲をそそる。
漬物はこうこう漬をよく出すが、四月に入ってから黄色に色づいた高菜漬や白菜漬も食膳に上る。
写真:春の朝食
上:お茶、焼き漬け菜/下:麦飯、大根葉の味噌汁
出典:神田三亀男 他編. 日本の食生活全集 34巻『聞き書 広島の食事』. 農山漁村文化協会, 1987, p.252-254