手打ちうどんと豊富な野菜――日常の食生活

連載日本の食生活全集

2023年07月13日

聞き書 茨城の食事 北部山間地帯の食より

夜明けが早くなり、農繁期は続く。炎暑に耐えながら、たばこの管理、田畑の草取りと、八月一日の八朔を迎えるころまで、一家は休むひまもない。野良へは一升びんに水を入れて持っていく。
主人は、暗いうちに起き、朝露にぬれながら、山での馬一駄分の朝草刈りが日課である。七時ごろ帰ってから朝食をとる。麦飯と味噌汁。麦飯は、暑いときだから、ごはんざる(竹製のおひつ)に入れる。夏の汁の実は豊富で、さとまめ(さやえんどう)、じゃがいも、なす、なりくらまめ(さやいんげん)があり、みょうがたけ、みつばは香りが高い。漬物はなす、きゅうりのぬか味噌漬か押し漬。
昼は麦飯、味噌汁、なすときゅうりの漬物。かぼちゃの煮つけ、時無大根の大根おろし、冷ややっこ、ふきの煮つけ、かつおの塩辛なども、ときには食膳にのぼる。大根を薄く輪切りにし、梅酢に漬けたものは、ほどよい酸味で、暑さでげんなりしたときも食欲が出る。大粒のらっきょうの塩漬(酢を加える)はお茶うけにいい。
一時間昼寝して午後の仕事にかかる。
日いっぱい働いて夕食は日暮れどきになる。土間に蚊いぶしの煙がたちこめる。麦飯、味噌汁、なすのしぎ焼き(油炒め)。なすは、汁の実、漬物、おかずと続き、「あるもので、ばっかり食い」となる。鶏を飼っていても卵は食べない。さとまめ、なりくらまめのてんぷらもごちそうである。
夏は、うどんを打つことが多い。一日、三日、十五日、三夜さん(二十三日)、雨降りで休みの日などに食べる。草刈りのときとってくるちちたけ(ちたけともいう。丸いかさを裂くと、白い乳のような液が出る)を、うどんのつゆのだしにすると、味がいい。これは油炒めにもする。べんけいにさしてある当歳の新ぶなを少し火にあぶって入れても、ちちたけに劣らない味が出る。青とうがらしや、籾殻をかけて軟化させたみょうがの茎の薬味はぴりっときく。
間食は、じゃがいものごろ煮(塩ゆでして皮をむいて食べる)、とうもろこし。とうもろこしは、自家採種のため実入りの悪いのもある。「もちとうもろこし」が好まれる。

写真:夏の夕食
上:赤しそ、きざみねぎ/下:うどん、たれ(味噌汁)

 

出典:桜井武雄 他編. 日本の食生活全集 8巻『聞き書 茨城の食事』. 農山漁村文化協会, 1985, p.163-164

関連書籍詳細

日本の食生活全集8『聞き書 茨城の食事』

桜井武雄 他編
定価3,850円 (税込)
ISBN:9784540850387
発行日:1985/10
出版:農山漁村文化協会(農文協)
判型/頁数:A5上製 348頁

「新豆できたから納豆寝せべ」穀類豊富な県央畑作地帯、水郷ならではの淡水魚を利用した南部水田地帯。水陸の幸を素材に食事づくりを手がけてきた主婦からの聞書きによってまとめた「常世の国」茨城の食事。
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