聞き書 長野の食事 安曇平の食より
九月に入り日中はまだまだ暑いが、風が涼しくなり秋を感じさせる。せんぜ畑に大根、稲核菜を播いて冬野菜の準備をはじめ、お蚕さまは桑のあるかぎり晩秋蚕まで飼いあげる。米を売ったお金だけでは一年中のかかりやまかないに足りないが、繭代金でえらい助かる。そのうえ一貫目でも多くとれた分で新しい着物の一枚でも、と精を出す。
稲穂が垂れて、じょうめ草(れんげそう)の種を播くと、あとは刈取りを待つばかりとなる。十月に入り、松本の神道祭りがすむと稲刈りがはじまる。朝暗いうちに田に出かけ、天気の続くかぎり刈り倒して、ひら干しにする。
稲の仕事も忙しいが、播いておいた稲核菜や大根の間引き、世話も忘れてはならない。一冬中食べる大事な野菜をおろそかにはできない。
■朝――うろ抜き菜の味噌汁、いなごとおろし
秋、朝霧がまくようになり空気が冷たく澄んでくると、山々は紅葉がはじまり、田のあぜ道でいなごがおもしろいようにとれる。昨夜、「地獄炒り」にして味つけしておいたいなごのつくだ煮と、太みの増してきた大根のおろし、夏いもとうろ抜き菜(間引き菜)の味噌汁で朝飯にする。涼気立ってくると、ごはんがおいしい。
写真:秋の朝食
上:いなごのつくだ煮、なす漬/中:大根おろし/下:白飯、夏いも、うろ抜き菜の味噌汁
出典:向山雅重 他編. 日本の食生活全集 20巻『聞き書 長野の食事』. 農山漁村文化協会, 1986, p.30-32