聞き書 石川の食事 金沢商家の食より
初秋のころは、なす、かぼちゃ、つる豆、金時草などの夏野菜がまだ残っているが、秋も深まってくると、さつまいも、いものこ、にんじん、大根、ごぼう、自然薯、白菜、れんこんなどが店先に並ぶ。十一月になると大根の浅漬を漬けこむ。魚貝類は、いわし、いか、あまえび、ふな、こうばこがに、ずわいがに、しじみ貝などが出回ってくる。
このころになると、近在の農家でれんこん掘りがはじまる。これから来年四月ころまでれんこんの味が楽しめる。泥のついた掘りたてのれんこんの味は格別で、煮もの、炊き合わせ、酢れんこん、てんぷら、おろしてそのまま味噌汁に入れたれんこん汁などにする。また、すりおろしたれんこんに小麦粉を入れてだんごにし、味噌汁に入れただんご汁は、すべすべと口当たりがよく、腹もちがよい。
■夜――白飯、れんこんのだんご汁、じぶ煮、あまえびとこんにゃくの炊き合わせ、酢れんこん、漬物
白飯が主であるが、まつたけがあるときはまつたけごはんにする。お汁の実は、豆腐、大根のそろえ菜、大根とじゃがいも、豆腐としばたけ(きのこの一種)、れんこんのだんご汁、いか、ふななどである。
おかずは、豊富な魚貝と野菜を使って三品ほどつくる。いかにおからを詰めて焼いた鉄砲焼き、もち米を詰めて煮たいかずし、つぐみの色づけ、ふなの色づけや煮つけ、あらい、たいやあまだいの塩焼きなど。かもやつぐみがあるときは、すだれ麩(縦にすじの入った生麩)、缶詰のたけのこ、ゆり根と煮こんだじぶ煮にする。そのほか、天津えび、まつたけ、しめじ、焼き豆腐、すだれ麩、いものこ、たけのこの入ったおあつものや、あまえびとこんにゃくの炊き合わせ、大根、にんじん、いものこ、こんにゃく、れんこんなどと揚げの炊き合わせ、酢れんこん、自然薯の酢のもの、いか、いわしとねぎのぬた、しゅんぎくのおひたしやごまあえ、そろえ菜のおひたしなどもよくつくる。漬物は昼と同じである。
写真:秋の夕食
上:酢れんこん、あまえびとこんにゃくの炊き合わせ/中:かぶとかぶの葉の切り漬、じぶ煮(鶏のささ身、すだれ麩、たけのこ、しいたけ、ゆり根、せり)/下:白飯、れんこんのだんご汁
出典:守田良子 他編. 日本の食生活全集 17巻『聞き書 石川の食事』. 農山漁村文化協会, 1988, p.32-35