いなごやつぼ、さんまが楽しみ――日常の食生活

連載日本の食生活全集

2023年09月06日

聞き書  山梨食事 甲府盆地の食より

夏蚕の繭の出荷が終わり一息つくと、九月上旬には秋蚕の掃立てとなる。三五日ぐらいで上蔟となり、十月上旬には秋蚕の繭の出荷となる。その間に、秋播き用の大根、地菜、ほうれんそう、えんどう、そらまめなどを播きつける。
九月中旬ごろからは日ましにしのぎよくなり、彼岸ともなれば食欲が増し、夏の疲れもとれてからだもしっかりしてくる。稲刈りは十月下旬から十一月上旬、次いで麦播きや、足踏み脱穀機を使っての稲こきなどが続き、十一月末ごろにはやっと農作業も一区切りとなる。
秋の忙しい農作業に追われながら、夏の疲れをとるために、主婦は食事づくりに気配りする。秋はおなけえりもおようだけもとらないが、そのかわりに、昼飯と夕飯の間にお茶とお茶うけで腹ごしらえする。
稲刈りのころになると、田んぼからいなごやつぼがとれる。また脂ののりきったさんまやいわしなども出回るので、いなごの炒り煮、つぼの味噌汁、さんまの塩焼きなどが食べられるのも秋の楽しみである。
夕飯――ほうとうまたはおすいとんか麦飯のおじや、さんまの塩焼き、大根おろし、どぶ漬
夕飯はほうとうやうどん、おすいとんにする日が多いが、ときどきおじやをつくる。少量の白米に米の五倍ぐらいの水と里芋、大根、にんじんなどを入れてゆっくり煮こみ、最後に青菜を入れて塩で薄味をつけたものである。米の補いにもなるし、夏の暑さで食欲が落ちたあとの疲れもいやしてくれる。

写真:秋の夕飯
おじや、さんまの塩焼きと大根おろし、どぶ漬

 

出典:福島義明 他編. 日本の食生活全集 19巻『聞き書 山梨の食事』. 農山漁村文化協会, 1990, p.32-33

関連書籍詳細

日本の食生活全集19『聞き書 山梨の食事』

福島義明 他編
定価3,850円 (税込)
ISBN:9784540900082
発行日:1990/12
出版:農山漁村文化協会(農文協)
判型/頁数:A5上製 376頁

徴兵検査で甲種合格率日本一といわれ、長寿県として有名な山梨の食の特徴は? 甲斐の山々に囲まれた海なし県ならではの雑穀、鳥獣、虫、魚の滋養豊かな食べ方、名物ほうとうの地域ごとの味わい方を紹介する。
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