聞き書 石川の食事 加賀潟(河北潟)の食より
潟沿いの低地に水田が開けている潟端では、雨が降ると、稲の穂が水にとっぷりとつかるくらいの大水になるので、人夫を頼み、降る前に稲刈りをすませる。排水の悪いこの地方では、昔から「雨が三粒降ると大水になる」といって、水害を恐れている。
稲刈り人夫が家に泊まりこんで働くので、三度の食事づくりもおかかの大変な仕事である。朝からこんかいわしの焼いたものなどを出すし、お汁にも卵を割りこむ。忙しいときだから特別のごちそうはできないが、焼き魚に野菜の煮ものもたっぷりとつくり、精いっぱいの心づかいをする。
■昼食――焼き魚や煮ものの箱弁当
一日中田んぼに出て、稲刈り、稲はさづくりをするので、箱弁当を持って行く。
白木の弁当箱は、近所の大工さんにつくってもらったものである。五人前の弁当が入るようになっていて、上の二段にごはんの箱を五個、下の一段におかず入れを五個入れて行く。人夫の多いときは、これを二箱持って出かける。稲刈りの時期には、舟の上で箱弁当を広げる光景が、あちこちに見うけられる。
弁当のおかずは、こんかいわしや塩だらなどの焼き魚、油揚げ、焼き豆腐、かぼちゃ、つる豆、なすの煮もの、それに漬物は、なすやきゅうりの味噌漬、らっきょう漬などである。
昼のお茶は、水樽に入れて持って行く。水樽に入れると冷たいお茶もぬるくならない。仕事に精出す人たちは、この冷たいお茶で一息つく。
写真:箱弁当
白飯に梅干し、煮もの(油揚げ、焼き豆腐、つる豆、かぼちゃ、なす)、こんかいわし。漬物は、なすやきゅうりの味噌漬、らっきょう漬を持って行く。
出典:守田良子 他編. 日本の食生活全集 17巻『聞き書 石川の食事』. 農山漁村文化協会, 1988, p.193-195