麦飯炊いて日傭師さんの弁当づくり――日常の食生活

連載日本の食生活全集

2023年09月08日

聞き書 奈良食事 十津川郷の食より

昼飯――麦飯、つぼきりさえれの焼いたの、しめじ汁、なすびの塩漬、味噌
大谷家では、日傭宿といって、上湯川のかり川で働く人たちをときどき大勢泊めている。日傭宿をした日は三〇~四〇人ほどの弁当を川まで届ける。そんな日は麦飯を一斗ほど炊く。どぶ酒(どぶろく)をつくるのも日傭師さんのごはんが余ったりしたときで、家で花をたてる(こうじをつくる)こともあるし、平谷から「こうじの素」(米こうじ)を買ってきて仕込むこともある。
山からはしめじが負いかごにどっさりとれるので、家族の昼飯や日傭師さんの夕飯の菜として、四升釜にいっぱいしめじ汁をつくって菜にする。
月に二回くらいの割で、紀州(和歌山県)の田辺などから海の魚の塩もの、干ものなどを担うて物売りが山越えしてやって来る。物売りが来た日は、つぼ切りさえれ(背開きの塩さんま)の焼いたのが菜につくこともある。一人四分の一切れほどで、子どもらは「頭のほうがいい」「しっぽのほうがいい」と大さわぎし、親は「早う食うな、もっとゆっくり食えよ」と叱りつけたりする。
田辺から来た物売りは、帰りにはび(まむし)、わり菜、ふしの実(うるしに似た木の葉先にできるこぶのようなもの。染料用)、しいたけのじゃみ(くず)を買って帰る。

写真:秋の昼飯
上:つぼ切りさえれの焼いたの、なすびの塩漬/下:麦飯、しめじ汁

 

出典:藤本幸平 他編. 日本の食生活全集 29巻『聞き書 奈良の食事』. 農山漁村文化協会, 1992, p.268-270

関連書籍詳細

日本の食生活全集29『聞き書 奈良の食事』

藤本幸平 他編
定価3,850円 (税込)
ISBN:9784540920035
発行日:1992/10
出版:農山漁村文化協会(農文協)
判型/頁数:A5上製 376頁

青丹よしといわれた奈良の都、法隆寺を仰ぐ斑鳩の里から山深い吉野・十津川郷まで、その歴史・民俗・食べ物を古老からの聞き書きと写真で記録。東大寺の結解(けっけ)料理など、各地の寺社料理も紹介。
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