聞き書 岐阜の食事 美濃(御嵩)の食より
■晩飯――いも飯、さよりの丸焼き、けんちん汁、抜き菜の一夜漬
一日刈りとった稲をわらで束ね、はざこ(稲架)にかけてしまうまでは、女たちは晩飯のしたくにかかれない。子どもは待ちくたびれて、かど(庭先)で暖をとるために焚き火をする。焚き火でできたおきを、ばんどこや火鉢に入れる。ばんどこは陶製の容器で、これに火を入れて木のやぐらの中に置き、まわりにふとんをかけて家族で暖をとる。熱がすぐに伝わってやけどをしやすいので、まわりに何枚か布類がはってある。子どもたちは、その残り火でいもを焼き、腹をふくらまして晩飯を待つ。
秋の晩飯には、さつまいもやただいもを入れたいも飯をよくつくる。塩やたまりを入れて炊くのでおいしく、子どもたちは何杯もおかわりをする。
このころになると、伊勢の行商人が生のさよりを持って回ってくる。行商人は、長いつき合いのうちに、どの家に何びきおいてゆけばよいのか心得ている。さよりは丸焼きにする。さよりの目玉のところに火ばしの先で穴をあけ、尾をつきさして丸くし、くどでわらを焚いて、わらの赤い火が残っているところへのせて焼く。
汁は、野菜をたくさん入れたけんちん汁をすすり、からだを温める。
晩飯が終わると、家族は穴ごたつ(掘りごたつ)に集まって、一日の語り合いをしたり、明日の仕事のことなど話し合う。穴ごたつは、もらい風呂の順番待ちの場となったり、夜なべ仕事の場所にもなる。
写真:秋の晩飯
上:さよりの丸焼き、抜き菜の一夜漬/下:いも飯(さつまいも)、澄まし汁(麩、ねぎ)
出典:森基子 他編. 日本の食生活全集 21巻『聞き書 岐阜の食事』. 農山漁村文化協会, 1990, p.185-187