聞き書 大阪の食事 大阪町場の食より
岩田家の長女、嘉代さんづきの女中さんの里が山間部の能勢にあり、春は、わらび、たけのこが送られてくる。湯の山温泉の親せきの「寿亭」からはきゃらぶきが、また堺の親せきからはわかめやあさりが届く。よもぎもちは大和の行商人が持ってくる。春をのせた山菜や磯の香りが食卓をしばしにぎわしてくれる。
■使用人の晩ごはん――麦ごはん、あじの塩焼き、シチュー、青菜のひたし
えんどうのシチューは、えんどうのしゅんによくつくる。鶏がらでとったスープで、にんじん、じゃがいも、たまねぎ、牛肉などをとろとろと煮こみ、えんどうを入れて塩で味つけしたものである。大だんさんが外国航路のコックさんに教えてもらった料理である。冬は、えんどうのかわりに、かぶらや大根が入る。
おかずの種類は多いが、少しずつしか盛りつけない。おかわりは自由である。つつましくなければいけないとされている商家の暮らしのなかで、大だんさんは早くから変化に富んだ豊かな食生活を西洋や印度、中国などからとり入れていた。船場の家にいた印度のコックさんからは多くを学んだ。大だんさんは、外国料理を味わうことは、異国の習慣や文化を勉強することのはじまりだと考えている。
写真:えんどうのシチュー
出典:上島幸子 他編. 日本の食生活全集 27巻『聞き書 大阪の食事』. 農山漁村文化協会, 1991, p.47-48