聞き書 秋田の食事 県南横手盆地の食より
大根についで種類の多いのは、なすの漬物である。
初秋(九月末から十月上旬)のころ、固めの丸なすを使って、ふかし漬をつくる。
まず、米をふかして完全に冷ました後、これに塩とこうじをよく混ぜる。
小さな漬桶にこの混ぜたふかし飯を敷き、焼きみょうばんをまぶしたなすを並べて、一本の生とうがらしを裂いてふりまく。その上にまたふかし飯をのせ、なすを並べるという手順をくり返しながら漬ける。すき間のないふたをし、最初重い石でおし、一週間くらいで水が上がったら、重石を半分に減らす。漬けてから四〇日くらいで食べられる。なすの皮の紺色が鮮やかで、ぱりっとかじると中がまっ白で、最高のうまさである。よくできたふかし漬は、翌年の四月ころまで食べられる。昼食によく、また弁当のおかずにもなる。家によって漬け方も味も多少違っている。
漬けなすを用いてつくる方法もある。漬けなすにみょうばんを塗って天日で二、三日乾燥させ、こうじと塩をふって漬けこむ。とろっとした甘みのある塩味が、ふかし漬の特徴である。このほか、なすの漬物には、塩漬、石こ漬、玄米漬、塩からなす、からし漬、黄色い菊と赤いなんばん、こぼれるような紺のなすを合わせたすし漬、味噌漬、酒粕漬などがある。
出典:藤田秀司 他編. 日本の食生活全集 5巻『聞き書 秋田の食事』. 農山漁村文化協会, 1986, p.145-146