端午の節句 各地の食(2)関東・甲信越

連載日本の食生活全集

2020年05月01日

のり巻き

聞き書 埼玉の食事 東部低地の食より

村社御室さまの春の大祭や女衆の集まり、初節句のごちそうの一つとしてつくる。
すし飯は、一升の米を炊いて一合の酢と玉砂糖、塩少々を混ぜ合わせる。芯には甘く煮たかんぴょうを使う。
巻き簀の上にのり一枚をのせ、合わせ酢を手につけ、すし飯を平らにのばし、かんぴょうを芯に巻く。包丁をぬらして六個に切り分ける。ときには、でんぷ(魚の身をほぐして味をつけたもの)をのせたにぎりずしも一緒につくって食べる。


かしゃんば

聞き書 東京の食事 島〈伊豆大島〉の食より

秋に赤い実をつけるさんきらいの葉に包んで蒸した、かしわもちのようなものである。
結婚式や五月の節句、御三原さま、行者さまには必ずつくられ、とくに初節句の家では、一俵くらいの米をこずき(ひき)、近所の人総出で二日がかりでつくって、親せきなどに配る。
草はな(よもぎの葉)は出はじめに摘み、重曹を入れてゆで、からからになるまで干して、いつでも使えるように保存しておく。
米(ただ米七、もち米三)は一昼夜水に浸し、翌日臼でこずいて粉にしてふるう。小豆あんも前日に煮ておく。
乾燥した草はなをこずいて粉にし、煮え湯をかけてしぼり、冷めないうちに米粉を入れて臼で搗く。固い場合は水を入れ、耳たぶくらいのやわらかさにする。これであんこを包み、さんきらいの葉にくるんでわっぱ(せいろう)でふかす。二升くらいのわっぱに入れてへっついでふかすが、ふかしすぎると口があくので、その前にとり出す。


かやちまき

聞き書 長野の食事 西山の食より

かやで包むちまきである。米粉をこね鉢へ入れ、熱湯を注ぎながらはしでかき混ぜ、少し冷めたら手でこねる。これを直径一寸、長さ二寸ぐらいのだんごに丸める。
畑のくろから刈ってきたかやは、きれいに洗って水を切っておく。三本のかやを手にとり、葉を広げてだんごを包み、一本の葉で、包んだ外側をくるくる巻いておさえる。せいろで二〇分ほどふかすか、なべでゆでるかする。砂糖たまりで食べる。かやはこの時期のものがやわらかくて、一番つくりやすい。
かやの香りがし、節句がきたなあと思う。かやは笹の葉と同じように防腐剤にもなるといわれている。
新しく嫁さんがきた家では、初節句にこのかやちまきを実家へ持っていき、無事と感謝のしるしにする。
このかやの葉のとがって長い姿が鬼の角を表わし、家を守るという。また、ちまきをゆでたゆで汁を戸間口へかけると、へびやむかでが家の中へ入らないという。


ちまき

聞き書 新潟の食事 蒲原の食より

男の節句になくてはならない食べものがちまきである。笹だんごにはくず米を使うこともあるが、ちまきにはいいもち米しか使わない。
もち米をといでよく水を切り、笹の葉を三角に折った中へ入れる(少し内輪に入れる)。口を折り、もう一枚の笹の葉で口をくるむように三角にかぶせ、水でぬらしたいぐさで三角にしばる。
このとき、きつくしばると、煮ている間に米がふくれて破れることがあるので、ゆるめに結んでおく。
桶の中に水を入れ、一晩ちまきをその中につけておく。翌日なべに水をたっぷり入れて、水のうちからちまきを入れ、火にかける。中まで十分火が通るには一時間以上かかるが、ゆであがったのをむいてみると、米が三角のもちのようにむっちりとしている。もちとはまた別な食べやすさがあり、笹の香りが香ばしい。砂糖の入ったきな粉をつけて食べる。

ちまきと笹だんご

笹もち

聞き書 新潟の食事 頸城海岸の食より

この地方独特の食べものである。春祭りや浜祭りには新笹は時期的に早いので、乾燥貯蔵しておいた前年の笹を使う。しかし、節句や夏行事には青々とした香り高い新笹を使うことができる。搗いて丸めたもちを上下二枚ずつの笹の間にはさむ、大きなもちである。
中に小豆あんを入れる場合もあるが、たいていは白もちで、黒砂糖の蜜やきな粉をつけて食べる。またよもぎを搗きこみ、春の香りを楽しむこともある。とくに新笹の笹もちは、来客の帰りみやげに喜ばれる。

 

出典:深井隆一 他. 日本の食生活全集 11巻『聞き書 埼玉の食事』. 農山漁村文化協会, 1992, p.224-224

出典:渡辺善次郎 他. 日本の食生活全集 13巻『聞き書 東京の食事』. 農山漁村文化協会, 1988, p.295-296

出典:向山雅重 他. 日本の食生活全集 20巻『聞き書 長野の食事』. 農山漁村文化協会, 1986, p.270-270

出典:本間伸夫 他. 日本の食生活全集 15巻『聞き書 新潟の食事』. 農山漁村文化協会, 1985, p.36-37, p.253-254

関連書籍詳細

日本の食生活全集11『聞き書 埼玉の食事』

深井隆一 他編
定価3,038円 (税込)
ISBN:9784540910050
発行日:1992/02
出版:農山漁村文化協会(農文協)
判型/頁数:A5 384頁

「あさまんじゅうに昼うどん」は物日におけるきまりもの。小麦、さつまいも、狭山茶、深谷ねぎ、岡部の大根など自慢の作物もいっぱい。街道のうまいもの、鋳物工場の給食まで収録。
田舎の本屋で購入

日本の食生活全集13『聞き書 東京の食事』

渡辺善次郎 他編
定価3,038円 (税込)
ISBN:9784540870989
発行日:1988/02
出版:農山漁村文化協会(農文協)
判型/頁数:A5 384頁

昭和初期、巨大都市・東京人は何を食べ、どう暮らしていたか。下町と山の手、都市部と農村部に目配りしつつ、深川・本所・日本橋から世田谷・葛飾・大森・奥多摩・伊豆大島などでの四季折々の食事の世界を再現する。
田舎の本屋で購入

日本の食生活全集20『聞き書 長野の食事』

向山雅重 他編
定価3,038円 (税込)
ISBN:9784540860768
発行日:1986/12
出版:農山漁村文化協会(農文協)
判型/頁数:A5 384頁

十州に境を連ねる信州の山と川、四つの平の恵みを生かしきる女の技を収録。木曽のすんき漬、東信の野沢菜漬、中信の稲扱菜など、特徴ある野菜がいっぱい。海こそなけれよろず足らわぬことなき暮らしと食を聞書きする。
田舎の本屋で購入

日本の食生活全集15『聞き書 新潟の食事』

本間伸夫 他編
定価3,038円 (税込)
ISBN:9784540850257
発行日:1985/08
出版:農山漁村文化協会(農文協)
判型/頁数:A5 378頁

「炊く」「蒸す」「搗く」「こねる」「焼く」。お米をさまざまに味わい分けてきた新潟県内を六つの食文化圏に分けて、それぞれの地域の豊饒を語ってもらう。
田舎の本屋で購入

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