聞き書 和歌山の食事 熊野灘の食より
とびうおは黒潮に乗ってくる。潮岬沖に当たった潮流は急に浅くなっているところで渦になり、立ち上がる。ここがとびうおの漁場になる。また、岬のとびか、雑賀崎のたい釣りかと、荒漁で知られている。春とび、秋とび、古せん(大きくなって味の落ちた秋とび)などと、串本の人は漁期を分けている。
身はよくしまり、つくったり焼いたりしてもおいしいが、くずし(揚げもの)にしてぬくぬくを食べるのを最上とする。くずしは、生の身をすり鉢ですりつぶしてうどん粉をほんの少し入れ、よく練って平たいだんごにまとめ、油で揚げる。とくに塩などは入れない。
写真:とびうおと、とびうおのくずし
出典: 安藤精一 他. 日本の食生活全集 30巻『聞き書 和歌山の食事』. 農山漁村文化協会, 1989, p.270-271