聞き書 長野の食事 佐久平の食より
九月に入ると、ふな田から水揚げしたものを、網で囲って、池の清水でしばらく泥抜きをする。
お祭り、運動会にはどこの家でもふなを煮る。持ち寄って味くらべをしながら、おいしく煮る方法をたずね合う。
醤油、酒、砂糖を煮たてた中に、ふなを丸ごと入れ、煮たつまで強火にし、あとは弱火で汁がなくなるまで煮つめる。
煮る前に塩をふってぬめりを落とすと、生ぐさみが抜ける、大根をなべ底に敷いて煮るとこげつかない、煮あがったところに濃いお茶をかけると苦みが抜ける、砂糖ははじめから入れないで、煮あがる寸前に入れると一つずつころっと煮える、ふたをしないで煮るほうが味も煮あがった姿もよい、などなど、長い経験のなかで得た技術を駆使し、家によって煮方も味も違う。
調味料は、ふな三〇〇匁に醤油一合三勺、砂糖七〇匁、酒一合が一般的な分量で、このほか、水あめやしょうが汁を入れる人もいる。砂糖は、赤ざらめを使うとよいというが、手に入りにくい。
ふなを長いこと清水につけておくとやせてこわくなるので、十月いっぱいくらいには煮て食べてしまう。
出典:向山雅重 他. 日本の食生活全集 20巻『聞き書 長野の食事』. 農山漁村文化協会, 1986, p.209-209