いろとりどりの精霊さまのおまかない―晴れ食・行事食

連載日本の食生活全集

2021年07月08日

聞き書 長崎の食事 北松浦・壱岐の食より

七月十二日は盆前の墓掃除の日で、この日は墓地も大にぎわいである。草を抜き、青竹で新しい花筒をつくって花しば、ほおずきをさす。
山口村では「精霊さまのおまかない」といって、いろいろのごちそうをつくる。精霊さまは十三日の午後、家にお着きになるので、朝のうちに女や子どもたちで仏さまを迎える準備をする。仏さまの茶わん類を生ぐさみがないように磨き、仏壇を掃除して草で編んだ精霊ごもを敷く。畑でとれたきゅうりやとうきびを高杯に盛り、もう一つの高杯にそうめんを一〇把ほどのせる。仏壇の前には、すいかも供える。ほおずきを飾って、提灯に火を入れる。
精霊さまのおまかないは宗派によって異なるが、禅宗では仏さまをお客さまとして遇するので、毎回の食事、茶うけは趣向をこらしてつくる。たとえば、
十三日夕 迎えだごとお茶
十四日朝 白飯、しいたけとこんぶ入り味噌おつけ、焼きなす、きゅうりのぬか漬
昼 白飯、そうめん汁、野菜、こんにゃく、ふの煮しめ、はすいものごま醤油あえ、らんきょ漬
ちゃあ ぼたもち、お茶
夕 小豆飯、けんちん汁、ひじきの煮つけ、ひゅうな(すべりひゆ)のおよごし、なすの味噌漬
十五日朝 白飯、しいたけとこんぶ入り味噌おつけ、きゅうりの酢あえ、こんぶの味噌漬
昼 白飯、そば汁、里芋と野菜の白あえ、きんぴらごぼう、梅干し
ちゃあ 送りだご、かからだご、お茶
夕 混ぜ飯、ふの吸物、揚げ豆腐と野菜の煮しめ、なすの酢味噌あえ、らんきょ漬
十五日の夜おそく、精霊さまを海へ送る。精霊ごもを広げて、仏さまへお供えした夕食、送りだご、うりなどを入れて包み、両端をしっかりと結んで、束ねた線香をまん中にさしこむ。線香の火が波間に見えかくれし、そのうち闇に消えると家路につく。

写真:お盆の料理(昼)
上:煮しめ、はすいものごま醤油あえ/中:らんきょ漬/下:白飯、そうめん汁

 

出典:月川雅夫 他. 日本の食生活全集 42巻『聞き書 長崎の食事』. 農山漁村文化協会, 1985, p.150-151

関連書籍詳細

日本の食生活全集42『聞き書 長崎の食事』

月川雅夫 他編
定価3,038円 (税込)
ISBN:9784540850011
発行日:1985/04
出版:農山漁村文化協会(農文協)
判型/頁数:A5 378頁

海岸線が全国で一番長い県・長崎。離島が群れなす長崎。中国と南蛮の影響。さつまいもの料理が一番発達している長崎。さまざまな長崎のさまざまな料理の全貌を紹介する。
田舎の本屋で購入

このカテゴリーの記事 - 日本の食生活全集
おすすめの記事