聞き書 長野の食事 佐久平の食より
水田で飼われていたこいやふながふだんの食膳に上るのは秋だけである。二百二十日になると、水田の水を切る。この日は家中総出で早朝から稲田に入り、夏中水田を泳ぎ、さなぎを食べて肥った魚を集める。
ふなは、流水に泳がせて泥を吐かせてから、醤油、酒、砂糖で煮つけて日常のおかずにする。
こいは、大きいものは池に放し、切りごい(切身にして料理するこい)として三年以上飼う。残りは背開きにして串にさし、いろりの火であぶって保存する。
稲刈りのすんだ田からは、つぶ(たにし)を掘って、味噌汁にしたり、むき身にして大豆と煮る。秋は主婦にとっておかずの材料が多く、うれしいときである。
■朝――ごはん、つぶの味噌汁、きのこ、枝豆
秋はうす暗いうちから起きて、なにかとってきては食膳にのせる。山を歩けば雑きのこが豊富に出ているし、山栗もひろえる。畑では、霜の降りるまでは夏野菜もとれる。
写真:秋の朝食
上:なすの漬物、枝豆/中:きのこの大根おろしかけ/下:ごはん、つぶの味噌汁、膳外はかぼちゃ
出典:向山雅重 他編. 日本の食生活全集 20巻『聞き書 長野の食事』. 農山漁村文化協会, 1986, p.188-189