聞き書 香川の食事 東さぬきの食より
■夏の昼飯
魚見(山の上から魚群を見張る人)の漁師は、県境にある大坂山の崖ぶちに登り、播磨灘を見下ろす。魚の群れを見つけると、「おーい、魚が来たぞー」とふもとの人びとに知らせる。
魚見の声がすると、大人も子どもも田畑仕事をほっといて、たなかご(竹製の手さげかご)を手に一目散に浜へ出る。そして地引き網を一生懸命に引く。網には、ぴちぴち跳ねるあじやいわしがかかり、漁師は手づかみで、たなかごへ「ほいほい」と気前よく入れてくれる。子どもたちは、銀色に光る魚を持って家へ駆けて帰る。そして昼飯のおかずにする。
あじの三杯(三杯酢あえ)と、きゅうりの酢のものをおかずにすると、何杯もおかわりして、おひつの底をついてしまう。さわやかな味と満腹感で、田の草取りの疲れも吹っ飛んでしまう。
写真:夏の昼飯
麦飯、あじの三杯、きゅうりの酢のもの
出典:井上タツ 他編. 日本の食生活全集 37巻『聞き書 香川の食事』. 農山漁村文化協会, 1990, p.25-26