聞き書 滋賀の食事 姉川蚕飼いの郷の食より
ふな(子持ちのにごろぶな)三貫目に塩三升、白飯五、六升とする。ふなは、三月から四月ごろとれたものを使う。まずうろこをとり、中のはごはご(はらわた)もきれいにとる。塩を一にぎりあごた(あご)の中に入れ、桶に並べて重石をする。この塩漬けを塩切りという。
六、七月ごろ、塩切りしたふなをたわしでこすってきれいに洗い、一晩ざるに頭を下にして水を切る。白飯を炊き、にぎり飯よりちょっと塩からいくらいの塩を混ぜ、よく冷まして、ふなのえらのところから腹に詰める。桶の底にごはんを敷き、ふな、ごはん、ふなと段々に一列ずつすき間なく詰めて、最後にごはんをたくさんのせて押さえる(これを本漬けという)。その上にばらん(葉らん)の葉をのせて、三つ編みにしたわらを桶の内まわりに沿って置き、木のふたをして二日ほど重石をおく(このとき重石は重いほどよい)。三つ編みのわらは、桶とふたのすきまを埋めるためのものである。また、塩を入れた湯冷ましをふたの上から入れて、色がわるくなったり虫がわかないように張っておく。このように水の管理には気をつかう。軒下や漬けもん小屋に保存するが、重石がころがらないでだんだん沈んでいくように、竹を桶のまわりに三本立て、縄で桶にくくりつけておく。
正月の来客用に封を切る。だいたい六、七月ごろまでに食べてしまうが、漬け直して二、三年ものを食べると骨までやわらかくておいしい。おめでたには大皿に盛りつけるため、その年の入用を考えて、大きなふなをわざわざ漬ける家もある。夏の疲労回復や腹下しにもよい。
食べ方は、そのまま薄く切って食べたり、お茶漬にしたり、湯を入れて吸いものにしたりする。湯を入れると固い頭の骨もやわらかくなり、全部残さず食べられる。ふなずし好きは、あの独特のにおいがたまらない。酒好きの男たちはいう。「酒のさかなにはふなずしが最高や」。
出典:橋本鉄男 他編. 日本の食生活全集 25巻『聞き書 滋賀の食事』. 農山漁村文化協会, 1991, p.204-205