夏─夜の船上で、とれたてのぼらを刺身で味わう

連載日本の食生活全集

2021年06月08日

聞き書 福岡の食事 豊前漁村の食より

この地方には、ぼら網と呼ばれる漁法がある。夏は、ぼらが群れをなして沿岸近くを回遊するので、その魚群を追って巻網でとり巻き、とびはねるぼらを、大きなたもや船で受けとめるのである。
ぼら網漁の船団は日没前に出漁し、古参の漁夫の指導で魚群を見つけては巻網をする。一晩で数千びきのぼらがとれたときは「万ぼらがとれた」といって喜び、岸の女衆に連絡すると、浜じゅうが喜んで魚の処理にあたる。
船上で食べる夜食―くらげ弁当、ぼらの刺身
ぼら網漁に出るときは、夜食の弁当と飲み水、酢醤油、魚切り包丁を必ず持っていく。弁当は竹製の楕円形の弁当箱に入れていくと、竹が湿気を吸いとってくれ、腐りにくい。これを、くらげ弁当といっている。弁当には、梅干しを入れた麦飯に、いろいろなおかずをとり合わせて入れていく。
ぼらがとれると、船上ですぐに刺身にし、醤油に酢だいだいを入れたものにつけて食べる。酢だいだいのないときは米酢を使う。

写真:夏の船上食「くらげ弁当」
麦飯に梅干しを入れ、おかずは干しあみの三杯酢、塩漬山菜の煮つけ、味噌漬などを入れる。

 

出典:中村正夫 他. 日本の食生活全集 40巻『聞き書 福岡の食事』. 農山漁村文化協会, 1987, p.305-307

関連書籍詳細

日本の食生活全集40『聞き書 福岡の食事』

中村正夫 他編
定価3,038円 (税込)
ISBN:9784540860775
発行日:1987/02
出版:農山漁村文化協会(農文協)
判型/頁数:A5 384頁

玄界灘・有明海・周防灘の三つの海と、筑後川・遠賀川などの豊かな水にうるおう古代国家発祥の地・福岡の食は、ロマンと豊饒、篤き信仰心と伝統に育まれている。
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