聞き書 奈良の食事 大和高原の食より
■大つごもり(大みそか)
十二月三十一日は一年間の事納めの日である。田和家では麦飯はふだんは食べないが、隣りの家で白米と裸麦を湯のみ茶わんに一杯分交換してもらい、夕飯に麦飯をつくる。この日は、麦飯に、里芋と大根の煮もの、いわしのこぶ巻きを一緒に食べる習慣がある。麦飯を炊くことを「麦をよます」といい、ようまわす(よい世の中になる)ようにと験をかつぎ、祈ったことから食べるようになった。いわしのこぶ巻きは、尾頭つきの干しいわしをこんぶで巻き、干しずいきやわらでしばり、野菜と一緒に醤油で煮しめたものである。いわしは頭口(頭ごと)食べると「人の頭になる」といわれ、子どもには頭から食べさせる。
男衆はいろりを囲みながら、串にさした豆腐のでんがくをあぶり焼きし、ごま味噌をつけ、あつあつを食べる。
夜は、正月の雑煮の具に味をしませるために準備する。ずいきの頭(里芋の親いも)、輪切りの大根をあらかじめ炊いておくのである。
写真:大つごもりのごちそう
上:里芋と大根の煮もの、いわしのこぶ巻き/下:麦飯、豆腐のでんがく
出典:藤本幸平 他編. 日本の食生活全集 29巻『聞き書 奈良の食事』. 農山漁村文化協会, 1992, p.128-131