聞き書 静岡の食事 中山間(岡部)の食より
八十八夜ころから、ふつうは茶摘みがはじまるが、玉露をつくるここでは、日覆いをしてあるために一〇日ほど遅れる。このときは、少し茶園が広ければ、手摘みの女衆や、茶もみの茶師も雇わなければならない。
このまかないは主婦の仕事であるから、田植えのときも含めて、初夏のころはまさに農繁期である。
お茶摘みに近所の人を雇ったときは、お茶の子を食べてくるし、弁当持ちでくるから楽だが、遠くの大井川向こうの人を雇ったときは、住みこみだから、それなりの食事のしたくがいる。しかし、山のほうの茶農家と違って、米を買わなければならないということもなく、自分の家でとれる麦飯を出せばそれですむから、特別なしたくはいらない。毎日のおかずはあまり変わらないが、それでも四、五人雇えばなかなか忙しい。
お茶が終われば麦刈りがあり、田植えが続く。田植えが終わったあとには、そば山の山焼きもする。
■お茶の子――お茶漬、どぶ漬
お茶の子はお茶漬に漬物くらいで軽くすまして、茶摘みに出る。
弁当が必要な時期だから、ごはんをめんぱ(曲げものの弁当箱)に二食分詰める。容器とふたの両方に飯を詰めて、まん中に梅干しを一個はさむ。別のおかず入れには、大根切干しの煮つけ、煮豆などを入れる。
二食分入るが、二人で働きにゆけば、結局、朝食を二人で分けて食べるので、一食分となる。お弁当にも、お茶を欠かさず持っていく。
写真:山仕事の弁当
めんぱに詰めたごはんには必ず何かをふりかけ、上下2つに分かれやすくする。おかず(右)は、たけのこと切干し大根、あらめの煮もの。
出典:大石貞男 他編. 日本の食生活全集 22巻『聞き書 静岡の食事』. 農山漁村文化協会, 1986, p.141-143