春の香り、さんしょうのつくだ煮が食欲を増す―日常の食生活

連載日本の食生活全集

2021年03月29日

聞き書 山梨の食事 笛吹川上流の食より

春のおそい山里にも、日だまりの草むらには、ふきのとうや、もち草(よもぎ)が春を告げ、ふきのとうの酢味噌あえや、もち草入りの草もちもすぐ食卓を飾る。五月上旬になると屋敷のさんしょうの生垣も芽が伸びてくるので、養蚕の合間にかごいっぱい摘む。次いで、たらの芽、わらび、ふきなどもとれはじめ、ぼつぼつ春の味が楽しめる。

■朝―おやき、おつゆ、さんしょうのつくだ煮、山東菜の漬物
冬の寒い朝にはおねりをつくることもあるが、養蚕期の忙しい時期を除いて、朝飯はほとんどおやきを食べる。
おやきには「練り焼き」と「こね返し」の二つのつくり方があるが、忙しい朝は、簡単にできる練り焼きの方法でつくる。
もろこしの粉を熱湯ででっち、こね返しの場合は、それをいったん蒸して、再度でっちるので舌ざわりのよいものができあがるが、練り焼きは、でっちてすぐあんを包んで焼く。あんは山東菜の古漬の油炒めや、砂糖入り味噌、塩味の小豆あんなど、ときとして異なる。丸めたおやきの両面をほうろくで乾かしてから、石のかまどの内側に立てかけて焼く。ぷうとふくらんだものからとり出して、手ぬぐいで灰をぱっぱっとはたいて食べる。
いろりのまわりに家族が座り、おやきをほおばり、前の晩のほうとうをわかし直したものと、さんしょうのつくだ煮、漬物を食べる。

写真:春の朝飯
おやき、ゆうべのほうとう、たくわん

 

出典:福島義明 他. 日本の食生活全集 19巻『聞き書 山梨の食事』. 農山漁村文化協会, 1990, p.81-82

関連書籍詳細

日本の食生活全集19『聞き書 山梨の食事』

福島義明 他編
定価3,038円 (税込)
ISBN:9784540900082
発行日:1990/12
出版:農山漁村文化協会(農文協)
判型/頁数:A5 376頁

徴兵検査で甲種合格率日本一といわれ、長寿県として有名な山梨の食の特徴は? 甲斐の山々に囲まれた海なし県ならではの雑穀、鳥獣、虫、魚の滋養豊かな食べ方、名物ほうとうの地域ごとの味わい方を紹介する。
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