聞き書 秋田の食事 県北米代川流域の食より
県北の冬の訪れは早く、雪と寒さがかけ足でやってくる。乾燥した稲のとり入れをやっとすまし、ほっとする間もなく霜の朝を迎え、まだ畑には大根やながいもが残っているのにと、冬のしたくに気が急かされる。寒波が早く到来し、冷害に見舞われる年も少なくなく、米の収量も思うにまかせぬこの地方では、翌年の出来秋まで家族が食いつなぐ食糧の確保が、雪の降る前の大事な仕事である。蔵、小屋、住居の天井や床下、土の中と、それぞれに適した場所を選んで、食糧を貯蔵する。
最も大切な米、麦、そば、ひえなどの穀類や豆類は、ねずみが出入りできないようにつくったせいろの中や梁の上に、いも類、栗、どぶろくなどは、凍らないよう、ほんのりぬくもりのある床下に、ぜんまいは渋紙の袋に入れ、薬草、干し魚などとともに天井の風通しのよい場所に貯蔵する。小屋には、味噌こが(木桶)、山菜、野菜、きのこの塩漬樽、魚の塩漬、こぬか漬、きりこみ(塩辛)のこがやかめ、大根、なす、きゅうりの漬物と、大、小のこがが、ところ狭しと並んでいる。
軒下には大根葉やつるし柿、土中の穴には、雪の消える春までの野菜類が冬囲いされている。この冬囲いは、春までもたせるものだから、量も十分なければならないし、みずみずしく、しかも凍らないように、ときどきとり出すにも不便でないようにつくられている。
■夜―寒だらの貝焼きっこ、飯ずし、塩辛、がっこ……
冬の夕食は麦飯かごはんで、漬けて貯蔵してあるものを、つぎつぎに出してたっぷり食べる。またこのころは、寒だらや、ぼうざめなどが市に出るので、これらの生魚を貝焼きっこの実にすることも多い。すけそうだらは比較的安く、手に入れやすいので、よく食べている。六人に一つ、大きな石の七輪になべをかけて、たらのざっぱ(頭や骨)、切身、だだみ(白子)、ねぎ、豆腐、塩出しきのこなどを入れて、すまし味に。煮えたら各自の皿によそって食べる。熱い貝焼きっこのごっつぉうでからだも温まり、子どもたちはいつか目がとろんとして眠くなり、男たちは酒っこもすすみ、ご機嫌である。
お菜は飯ずしや塩辛、がっこだが、漬け並んでいるこがや、すしこがのどれから先に食べ出すのだったろう、味はどうだろうと思い悩むのも、女たちの楽しみの一つである。
自分でつくった塩引き鮭の切身と野菜の鮭ずし、暮につくってあるはたはたずし、身欠にしんと干し大根、にんじんのにしん漬、いか塩辛、大根の一本漬、がっくら漬、きゅうり漬と、どれもみな、女たちの漬物上手の産物である。男たちも負けじと、酒っこつくりの自慢話に花を咲かせ、食べ終えると、次は夜なべ仕事に精を出す毎日である。
写真:冬の夕食
上:〔左から〕にしん漬(身欠きにしん、にんじん、干し大根)、野菜の鮭ずし(白菜、にんじん、大根)/中:いかの塩辛/下:ごはん、味噌仕たての貝焼き(すけそうだら、たらの子、ねぎ、豆腐)
出典:藤田秀司 他編. 日本の食生活全集 5巻『聞き書 秋田の食事』. 農山漁村文化協会, 1986, p.226-230