松葉がにの塩ゆで

連載日本の食生活全集

2022年02月08日

聞き書 鳥取の食事 城下町鳥取の食より


解禁は十一月中旬から三月末日までである。ずわいがにの雄を鳥取では「松葉がに」といっているが、それにはいろいろの説がある。『鳥取の食文化』(鳥取市教育福祉振興会発行)によれば、漁師が、かにの足の殻をはいで水につけると、軟骨を中心に筋肉が松葉のように広がるからだという。また、民族学の権威で鳥取近郊の漁村の出身である故橋浦泰雄氏は、松葉がにを料理するには、食べやすいように足に縦に包丁を入れ、食べるときは松葉を開くように左右にさいて食べるからだという。割烹「たくみ」前社長の故浅沼喜実氏は、松葉がにの時期はちょうど海浜の松林の落ち葉をかき集める時期で、手漕ぎ船でとれたかにを浜に大釜を据えてゆでるとき、かき集めた松葉を燃やしたからではなかろうかといっている。
松葉がには、今どれ(とれたての)の生を大八車に積んだり、天びん棒でかついで、日本海沿いの賀露の漁港から売りにくる。
食べ方は、刺身やかにすき、三杯酢をつけたりといろいろであるが、塩ゆでした新しいみずみずしいものを、そのまま食べるのが一番である。家庭では、かにの足をしっかりくくり、大なべの熱湯で一五分ゆでる。

 

出典:福士俊一 他編. 日本の食生活全集 31巻『聞き書 鳥取の食事』. 農山漁村文化協会, 1991, p.80-80

関連書籍詳細

日本の食生活全集31『聞き書 鳥取の食事』

福士俊一 他編
定価3,038円 (税込)
ISBN:9784540910036
発行日:1991/10
出版:農山漁村文化協会(農文協)
判型/頁数:A5 382頁

日本海側有数の漁港=賀路・境港のある鳥取県は、魚、えび、かに、貝と海の幸が多彩。磯場の夏泊海岸の海女漁は豊臣時代からの歴史をほこる。因幡の山間、伯耆富士=大山の山麓には山の幸たっぷりの食生活が。
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