弁当のおかずに、堀のもろこも仲間入り―日常の食生活

連載日本の食生活全集

2022年04月25日

聞き書 滋賀食事 湖南米どころの食より

春先は土手の柳が芽を吹き、ふきのとうやつくしが芽を出す。ほのぼのと春の香りが漂ってくる。たけのこは近くの藪から分けてもらう。畑のふきが青々と伸びてくると、こんぶと炊いてつくだ煮にしたり、土の中におぼんで(埋めて)おいた里芋と炊いたりする。さんしょうはきざんで、焼きだめ(身欠きにしんとの味噌あえ)をつくる。
昼の弁当―麦飯、味噌茶、焼きだめ、きんぴらごぼう、たくあん、梅干し、塩こんぶ
五月にしとしとと雨のよく降る年は、麦の収穫が遅れる。田の裏作の大麦や畑の小麦を刈りとると、やっと苗代づくりがはじまる。若い夫婦が弁当を持って田舟に乗りこみ、堀の向こうの田に向かう。姑は留守番をする。
昼は、野小屋でめんつ(曲物)に詰めた弁当を食べる。焼きだめをごはんの上にのせて食べると食欲が増す。これだけでも十分おかずになる。また、舟にはお湯をわかせるように七輪を積んでいる。おわんの中にだしじゃこ(川雑魚の焼干しや煮干し)と味噌を入れてお湯を注ぐと、味噌茶といって即席の汁ができる。ときには、田舟から前がきというたま(網)でもろこをすくってとり、さっと火であぶり、その上に味噌を置き、上から熱いお湯をかけて食べる。もろこはやわらかくておいしい。ぴりっとしたたかのつめ(赤とうがらし)を入れて炊いたきんぴらごぼうも、重労働のあとのお昼のおかずには、特別おいしく感じる。

写真:春の弁当
麦飯と梅干し、おかず(たくあん、焼きだめ、こんぶのつくだ煮、きんぴらごぼう)、もろこ入りの味噌茶

 

出典:橋本鉄男 他編. 日本の食生活全集 25巻『聞き書 滋賀の食事』. 農山漁村文化協会, 1991, p.75-77

関連書籍詳細

日本の食生活全集25『聞き書 滋賀の食事』

橋本鉄男 他編
定価3,850円 (税込)
ISBN:9784540910012
発行日:1991/6
出版:農山漁村文化協会(農文協)
判型/頁数:A5 384頁

日本最大の湖・琵琶湖には鯉・鮒・もろこなど淡水魚があふれる。ふなずしをはじめ、滋賀県特有の湖魚の食べ方をもらさず紹介。また、近江商人発祥の地に残る本宅(店に対する自宅)の食生活など話題がいっぱい。
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