聞き書 新潟の食事 佐渡の食より
春祭りのにぎわいが終わると農繁期を迎える。この時期から、漬物は水漬大根からたくあんになり、俵やかますに入れて蔵の中にとってある穀類と、穴倉に入っているいも類を出して食べはじめる。種籾の残ったものは干してとっておき、ほうろくで炒ってから石臼で粉にし、湯にかいて食べる。春はまた、山のものをとりに出かける時期でもある。
■朝
春とはいえ四時はまだ暗い。かまどの火の明かりで、台所の掃除をする。前日にといでおいた七分搗き米一升五合に大麦七合を煮たものを混ぜて、五升釜で炊く。米と麦が半々ぐらいになる感じに見えるが、別にまずいと思わない。ときには大根菜飯もつくるが、ほんとうにときたまである。おおばこの葉とか、ろうぼう(りょうぶ)の葉を混ぜて炊いている家もある。このあたりでは「ぜんまい山よりも、ろうぼう山のほうが楽だ」といって、りょうぶの葉をよくとって食べる。
味噌汁は二升なべに打ち豆、じゃがいも、せりなどを入れて、いつも実だくさんで煮しめのようである。ときどき、なめぜえ(一種のひしお)か煮しめなどがおかずになる。なめぜえは昨年の暮れに、味噌を煮たときつくって、かめに入れてとっておいたものである。
漬物は大根漬がおもで、そのほか、梅干しとからっきょう漬も少しずつ食べる。梅干しは庭の梅からつくる。弁当を持つ人には梅干しは好きなだけということになっているので、もう一個食べたいと思っても、家族が多いので、あとのことを考えてがまんする。
朝食が終わると、子どもをこしき(わらでつくったゆりかごのようなもの)に入れておいて、川でおしめを洗って、木のかぶや枝にかけて干してから、夫のあとを追いかけて田んぼへ行く。
写真:春の朝食
上:たくあん、なめぜえ、梅干し/下:麦飯、味噌汁(打ち豆、じゃがいも、せり)
出典:本間伸夫 他編. 日本の食生活全集 15巻『聞き書 新潟の食事』. 農山漁村文化協会, 1985, p.281-282