聞き書 山梨の食事 甲府盆地の食より
夏蚕の繭の出荷が終わり一息つくと、九月上旬には秋蚕の掃立てとなる。三五日ぐらいで上蔟となり、十月上旬には秋蚕の繭の出荷となる。その間に、秋播き用の大根、地菜、ほうれんそう、えんどう、そらまめなどを播きつける。
九月中旬ごろからは日ましにしのぎよくなり、彼岸ともなれば食欲が増し、夏の疲れもとれてからだもしっかりしてくる。稲刈りは十月下旬から十一月上旬、次いで麦播きや、足踏み脱穀機を使っての稲こきなどが続き、十一月末ごろにはやっと農作業も一区切りとなる。
秋の忙しい農作業に追われながら、夏の疲れをとるために、主婦は食事づくりに気配りする。秋はおなけえりもおようだけもとらないが、そのかわりに、昼飯と夕飯の間にお茶とお茶うけで腹ごしらえする。
稲刈りのころになると、田んぼからいなごやつぼがとれる。また脂ののりきったさんまやいわしなども出回るので、いなごの炒り煮、つぼの味噌汁、さんまの塩焼きなどが食べられるのも秋の楽しみである。
■夕飯――ほうとうまたはおすいとんか麦飯のおじや、さんまの塩焼き、大根おろし、どぶ漬
夕飯はほうとうやうどん、おすいとんにする日が多いが、ときどきおじやをつくる。少量の白米に米の五倍ぐらいの水と里芋、大根、にんじんなどを入れてゆっくり煮こみ、最後に青菜を入れて塩で薄味をつけたものである。米の補いにもなるし、夏の暑さで食欲が落ちたあとの疲れもいやしてくれる。
写真:秋の夕飯
おじや、さんまの塩焼きと大根おろし、どぶ漬
出典:福島義明 他編. 日本の食生活全集 19巻『聞き書 山梨の食事』. 農山漁村文化協会, 1990, p.32-33