聞き書 宮城の食事 北上丘陵の食より
■夕――うどん、野菜てんぷら、ほやの酢のもの、なす漬
「初ものを食べると七五日寿命がのびる」とよくいわれる。そのため、その年にはじめてとれた作物や、山や川の獲物、山菜や木の実などを、よその家よりも早く食べることが自慢の種になっている。
お盆前につくるうどんも、とれたての小麦を家で粉にひき、さっそく食べてみようとするものである。穀類は貯蔵がきくので、不作の年を考え一年分以上も蓄えておくのがふつうである。ふだんは古いものから食べるため、味がどうしても悪くなってしまうのはいたしかたない。そのため、初ものとして食べる穀物はとくにおいしく感じられる。とれたてのものを食べることには、このほかに、作物の恵みを授けてくれた神々へ感謝し、自分たちの努力の結晶である収穫を喜び祝う意味も含まれる。
うどんのたれは川魚の焼干しなどでだしをとり、醤油で味つけする。実として油麩(油で揚げた棒状の麩)、凍み豆腐のほか、なすや花みょうがも入れる。それを卵でとじれば上等なものとなる。
てんぷらの油も、収穫した菜種をお盆を前にして油屋でしぼってもらったもので、やはり初ものである。ささぎ、たまねぎ、からいも、なす、にんじん、ごぼう、しその葉などを揚げる。
ほやは三陸海岸特産の海産物で、真夏が出回りの最盛期となる。その味は、一度食べると忘れられないほどの魅力がある。ほやは鮮度が問題となるが、この地域は峠を越えて二里半ぐらいのところに志津川という漁港があるので、新鮮なほやを行商の女たちから手に入れることができる。ふだん食べる海草や行事のときの魚も、行商人から買っている。
写真:夏の夕食
なす漬、ほやの酢のもの、うどん、野菜のてんぷら
出典:竹内利美 他編. 日本の食生活全集 4巻『聞き書 宮城の食事』. 農山漁村文化協会, 1990, p.178-181