聞き書 山口の食事 城下町萩の食より
秋の空は高く、そして深く澄みきって美しい。秋風が立ちはじめると、まつたけや栗、梨など山の幸の訪れを待ちながら、おかさまは合ものに衣替えをしてたすきをかけ、まっ白い割ぽう着姿で立ち働く。秋の夜長には、布団の仕立てと秋祭りの準備、正月用晴れ着や冬ものの仕立てにいそしむ。それはまた娘の花嫁修業の場でもある。
待ち遠しかったまつたけが店先や行商の車に並ぶと、初ものは少し買って、畑のゆずきちを吸い口におつゆで香りを楽しむ。出盛りになると毎日買って、焼きまつたけや、まつたけごはん、こうじ漬にする。栗も買って栗ごはんを炊く。梨も八百屋の店頭に並び、裏庭の柿も色づく。
「さば買やらんか」という振り声で、かねり(頭上にたらいをのせて売る女衆)が玉江浦から生きた秋さばを売りにくる。秋さばは脂がのって値段も安くおいしい。ぎらぎらと輝いて生きのよいさばは刺身や湯引きに、そしてきずし(しめさば)や味噌煮、塩焼きにする。また、しょうがを入れた煮つけや照焼きと、いろいろ料理法を工夫して目先を変える。
写真:さばの湯引き
秋が一番おいしい
出典:中山清次 他編. 日本の食生活全集 35巻『聞き書 山口の食事』. 農山漁村文化協会, 1989, p.294-295