かき雑煮

連載日本の食生活全集

2021年01月04日

聞き書 広島の食事 広島湾沿岸の食より

この地方では、正月の雑煮に必ずかきを使う。かきは「賀喜」という字を当てたり、「福をかき寄せる」といって、正月の材料にふさわしい縁起のよい食べものといわれている。平生は換金用にして、よほどのくずがきでないとおかずに使わない家々でも、せめて正月にはうまいかき雑煮を食べようと、上等のかきを使って雑煮をつくる。
一般にかき雑煮と呼ばれているものは、澄まし仕立てである。大粒のかきをさっとゆでて、ふち(外套膜)がめくれてぼたんの花びらのように開いたところをとり出しておく。かきのゆで汁に水を足して醤油で味をつけ、丸もちを煮る。これをわんに盛り、その上にかき、かまぼこ、青み野菜などをのせ、汁を注ぐ。
一方、かき養殖をしている人たちの家では、かきと野菜を一緒に煮て、味噌で味つけする味噌雑煮を多く食べる。広島市仁保の森本家も味噌雑煮である。
大きななべに、水とともに大根、白菜、にんじんを大きく切って入れ、煮たってきたらかきを入れる。かきからよいだしが出るので、いりこ(煮干し)などほかのだしは使わない。野菜が煮えたら味噌で味をつけ、丸もちを入れる。もちが煮えたころ小口切りのねぎを散らしてわんに注ぐ。
母親は、家族みんなになんぼ食べるかと一人ずつ聞いて、それらを合わせた数のもちを一ぺんになべに入れて煮る。長く煮るともちが溶けてくるから、雑煮のときは家族全員がいっせいに食卓を囲んでいただく。

写真:澄まし仕立て(丸もち、かき、かまぼこ、せり)

 

出典:神田三亀男 他. 日本の食生活全集 34巻『聞き書 広島の食事』. 農山漁村文化協会, 1987, p.91-91

関連書籍詳細

日本の食生活全集34『聞き書 広島の食事』

神田三亀男 他編
定価3,038円 (税込)
ISBN:9784540870668
発行日:1987/10
出版:農山漁村文化協会(農文協)
判型/頁数:A5 382頁

"耕して天に至る"瀬戸内の島の味の基本はひしお味噌、広島湾のかきには「いろは48種」の料理。備北山地では日本海のわにが、芸北山間では石州からの魚が食卓を飾る。
田舎の本屋で購入

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