聞き書 秋田の食事 鳥海山麓由利の食より
冬の厳しい寒さのころ、海からたらが多くとれる。いろいろの食べ方があるが、しょっつるなべが一番である。
しょっつるは、豊富にとれたはたはた、にしん、ひしこいわしなどの魚を生のまま桶やかめに入れ、こうじと塩をふりかけ、からい塩漬にし、日を経て自然ににじみ出た上水をこしてつくる。二、三年もたつと発酵して骨も頭もどろどろになる。その液をいつまでもとりかえず、年々新しい材料を仕こみ加える。味は熟度や家によって微妙に違うが、原液は口が曲がるほど塩からく、そのうえ魚の成分が溶け合って鼻もちならないほどのにおいである。しかし、これを適度に薄めることによって、独特の風味を持ったおいしい塩味調味料となる。
たらのしょっつるなべは、寒中に水揚げされたたらを適当な大きさにぶつ切りし、これに、のばして薄くしたしょっつるで味をつけ、豆腐、根深ねぎ、油揚げ、白菜やきのこ、山菜なども加えて煮て、熱いのを食べる。
金浦町の金蒲山神社では、元禄の昔から続いている奇祭、たら祭りといわれている掛魚祭りがある。これは立春の日に豊漁と海上の安全を祈って、日本海からとれた一ぴき四貫目もある大たらを縄でつるして棒にかけ、神前に担ぎ上げて奉納する。寒たらは収入が多いため、それぞれの船主が感謝の意をこめて奉納する。若衆が大たらを威勢よく、朝早くからつぎつぎと境内に持ちこんでくる。白鉢巻姿もりりしく、息をはずませる姿は勇ましい。
大漁祈願をこめて奉納される大たらは、奥殿の前、きだはし(きざはし=階段)の両側に荒縄でつるす。神事が終わると、たらは各部落に、さがりものとして配られる。各部落では、これをさかなに大漁祝いの大酒宴が行なわれる。たらのしょっつるは、こうして名物になってきている。
出典:藤田秀司 他. 日本の食生活全集 5巻『聞き書 秋田の食事』. 農山漁村文化協会, 1986, p.334-335