聞き書 埼玉の食事 入間台地の食より
■夜―残りの麦飯、打ち入れ、大根のごまあえ、からし菜の一夜漬
男衆はあたりが暗くなるまで働き、前栽畑でとれた野菜をかかえて帰ってくる。織工さんたちは、忙しいときは夜なべもするが、たいてい七時ころには仕事を終える。
春とは名のみ、底冷えのする夜には、打ち入れがなによりのごちそうになる。麦飯の残りぐあいをみて、うどん粉(小麦粉)の量をきめる。うどん粉をこねる水の量で、できあがりが違う。男衆や織工さんたちはしこしこした固めのものを好む。うどん粉をこねてのし、幅広く短めに切り、煮たった汁の中に入れ、ぐつぐつ煮こむ。汁は、いろりに大なべをかけ、大根、にんじん、ねぎ、京菜などを大きめにきざんで入れ、味噌と醤油で味をつける。何杯もおかわりするので多めにつくる。
逆さに埋めた大根は冬を越して長もちするので、千六本に切って蒸してごまあえにする。あつあつの打ち入れには、冷たい大根のごまあえがさっぱりして喜ばれる。また、濃い緑色が新鮮なからしなの一夜漬もよく合う。
写真:春の夜飯(よめし)
上:大根のごまあえ、たくわん/下:打ち入れ
出典:深井隆一 他. 日本の食生活全集 11巻『聞き書 埼玉の食事』. 農山漁村文化協会, 1992, p.113-115