聞き書 島根の食事 宍道湖・中海沿岸の食より
五月三十日か三十一日ころから十五日くらいの間に田植えをする。嫁に来てはじめて迎える田植えには、実家から贈られたモスリンのたすきともちを近所に配り、「よろしくお願いします」とあいさつをする。家では新しいかすりの着物、前掛け、手甲、脚絆をつくって嫁に着せ、田植えに出す。お嫁さんはすぐわかるように赤いお腰に幅広の派手なたすき姿で、働きぶりをまわりから見られる。
この地方では、どこの家も田植えの遅い地方から一人一日五畝植える計算で三~一〇人くらいの手伝いの人を頼み、田植えを一気にすます。
田植え人は朝早く来て四時ころから苗とりをする。苗とりが終わると朝飯になる。苗代は家の近くに仕立てることになっているから朝飯は家で食べてもらう。
■晩飯―白米ごはん、煮もの皿、焼き魚、なます、あごの刺身、小だいの吸いもの
田植えころになると農作業に追われ、宍道湖での漁が少なくなる。このため魚は日本海のあじ、さば、あごをよく使う。あごは刺身に使い、小だいは吸いものにする。煮もの皿には野焼きかまぼこか、すとかまぼこを添える。
田植え人は食事が粗末だと翌年は来てくれないので、できるだけごちそうをする。
写真:田植え人への晩飯
膳内:〔左上から〕煮しめ(こぶ、たけのこ、ごぼう、しいたけ)と野焼きかまぼこの煮もの皿、ふなの刺身、大根とふなのなます、白米ごはん、ふなのあら汁/膳外:酒、このしろの焼き魚
出典:島田成矩 他. 日本の食生活全集 32巻『聞き書 島根の食事』. 農山漁村文化協会, 1991, p.29-31