聞き書 福岡の食事 豊前漁村の食より
この地方には、ぼら網と呼ばれる漁法がある。夏は、ぼらが群れをなして沿岸近くを回遊するので、その魚群を追って巻網でとり巻き、とびはねるぼらを、大きなたもや船で受けとめるのである。
ぼら網漁の船団は日没前に出漁し、古参の漁夫の指導で魚群を見つけては巻網をする。一晩で数千びきのぼらがとれたときは「万ぼらがとれた」といって喜び、岸の女衆に連絡すると、浜じゅうが喜んで魚の処理にあたる。
■船上で食べる夜食―くらげ弁当、ぼらの刺身
ぼら網漁に出るときは、夜食の弁当と飲み水、酢醤油、魚切り包丁を必ず持っていく。弁当は竹製の楕円形の弁当箱に入れていくと、竹が湿気を吸いとってくれ、腐りにくい。これを、くらげ弁当といっている。弁当には、梅干しを入れた麦飯に、いろいろなおかずをとり合わせて入れていく。
ぼらがとれると、船上ですぐに刺身にし、醤油に酢だいだいを入れたものにつけて食べる。酢だいだいのないときは米酢を使う。
写真:夏の船上食「くらげ弁当」
麦飯に梅干しを入れ、おかずは干しあみの三杯酢、塩漬山菜の煮つけ、味噌漬などを入れる。
出典:中村正夫 他. 日本の食生活全集 40巻『聞き書 福岡の食事』. 農山漁村文化協会, 1987, p.305-307