聞き書 沖縄の食事 やんばるの食より
夏の夜明けは早い。しんめーなび(大なべ)にいつものように山盛りのうむ(さつまいも)を炊き、朝ごはんの準備をする。朝の涼しいうちに明日の主食のうむを掘ってくる。大きな竹かご一杯のうむは、どう見ても五〇斤くらいはある。
畑が少ないので、掘ったあとからつぎつぎ芋苗を植えていかないと、主食に間に合わない。畑が空きしだい植える準備をして雨を待ち、雨が降ったあとは、家族でへーういをする。へーういは、四月から六月に芋苗を植えることである。さとうきびの培土(さとうきびを植えたうねに堆肥を入れて土を肥やすこと)もあるし、小豆、緑豆、そら豆もそろそろ収穫の時期にきている。
毎年夏になると台風が決まってやってきて、多かれ少なかれ、農作物に大きな被害を残していく。返しの風も恐ろしいので、風がすっかりやんでから畑の見回りに出かける。
植えつけた芋苗は、葉がすっかりやられて骨(茎)だけになっている。さとうきびも、折れたりしている。立ち直るまでは日数がかかるし、余分な仕事が多くなる。
雨台風のときはすぐには畑に入れないので、乾くのを待って、畑のまわりに杭を打ち、綱をかけて道ばたに倒れたさとうきびを起こす。ぎらぎら照りつける太陽の下、手間ひまもかかり、大変な重労働である。
海に囲まれた小さな島は、潮害も受けやすく、うむ畑のうむの葉は目に見えて枯れる。植える芋苗にもこと欠くしまつである。渡し舟で本島に渡り、台風被害の少なかった村の友人や知人から、芋苗をつごうして分けてもらってくるのも、また一仕事である。
夏は、潮干狩りでまがき貝キラジヤイナやたこタフもよくとれる。だれもが海技うみわざが上手で、女でもたこをとる。自分で見つけてあるたこ穴の所在は、親にも子にも、夫にも教えない。干潮時になると夜の夜中でもたいまつをかざして、海上手の女たちは手柄(えもの)を求めて海へ出かける。やがてやってくる七月の盆のために。
■朝―うむ、貝の汁、貝の脂味噌
夕べの漁でとってきた琉球ひばり貝の味噌汁に、おかずはまがき貝の脂味噌、それであつあつのうむを食べる。脂味噌は、うむとよく合って食欲が出る。
写真:夏の朝食
うむ、貝の油味噌、貝の汁
出典:尚弘子 他. 日本の食生活全集 47巻『聞き書 沖縄の食事』. 農山漁村文化協会, 1988, p.164-166