聞き書 愛媛の食事 宇和海(西海)・宇和島の食より
寒のほおたれは、さらし刺身としてしゅんの味が食通に愛好される。朝、浜揚げされたほおたれは、昼すぎると鮮度が落ちて腹部からくずれてくる。夕方になれば内臓が出てくることもある。
日があがる前に手に入れたほおたれは、手開きにしようにも骨離れしがたい。手開きできる段階ではすでに鮮度が落ちてしまっているから、青皮を残した竹で、青皮を内側にして両端を糸でしばって輪をつくり、身をそぎとる。尾びれが残らないようにする。
そぎ身は冷水でさらし、ぎらぎら浮かぶ脂が出なくなるまで流水を注ぐ。半透明の魚身がやや白さを増すまでに薄塩水を加えてさらし、身をしめる。ざるに打ち上げて水を切る。
薄口醤油にわずかに七味を加え、さらし刺身につけて食べる。くさみを消すためにしょうがを加えてもよいが、十分にさらせばその必要はない。うどんをすするようにたくさん食べてもあきることがない。
漁師は沖どりしたほおたれの頭を上から押しはずし、内臓を抜いて、潮水にくぐらせてそのまま口に入れ、骨を抜きとって酒のさかなとする。これが本来のほおたれの食べかたといえるようだ。
出典:森正史 他. 日本の食生活全集 38巻『聞き書 愛媛の食事』. 農山漁村文化協会, 1988, p.66-67