聞き書 長野の食事 伊那谷の食より
かぶ菜漬には切り漬と長漬がある。漬ける種類は、この地方でつくられた源助かぶ菜である。葉がやや多く、ずい(茎)の部分が少ないが、味がよいので、この地方では源助かぶ菜が主流である。霜が数回降りて、のりが出た(ずいの繊維がやわらかくなり、すじっぽさがなくなる)ところで漬けると、やわらかくてよい。十一月末ごろから漬物の時期である。
切り漬は、十二月から二月ごろをめどに食べるように漬ける。一寸くらいの長さに切って、桶の中へ塩をふり入れては、かぶ菜を入れて漬けていく。切ってあるので、すぐ水が上がる。桶の一番上に柿の皮の干したものを、布袋に平らになるように詰めて置き、ふたをして重石をする。
長漬は大切なおかずである。三月から食べはじめるので、塩をきかせて四斗桶二本くらいに漬ける。かぶ菜一にぎりくらいを一束に束ねておき、これを一つ並べに桶の底から並べながら塩をふる。塩加減は、霜降りていどといって、霜が降りたくらいの白さにする。やはり柿の皮か、四つ割りに切った干し柿を布袋に入れてふたにして、その上にさらに木のふたをする。大きな重石をして、水が上がってきたらやや軽い重石ととりかえる。ふたの上に常に漬け汁があるように、様子を見る。べっこう色に漬かったかぶ菜漬は、冬の食卓に欠かせないもので、これを食べてはお茶を飲む。
写真:晩秋のかぶ菜引き
出典:向山雅重 他編. 日本の食生活全集 20巻『聞き書 長野の食事』. 農山漁村文化協会, 1986, p.126-127