聞き書 山梨の食事 笛吹川上流の食より
寒い冬の朝は家の前の川一面に薄氷が張り、川原の石にはつららがぶら下がっている。こんな朝でも、大人も子どもも川の水で顔を洗う。
主婦は家族のだれよりも早く起きて屋敷の裏のわき水を手桶にくみ、鉄びんに入れてかまどにかける。かまどの下の燠をこたつに入れ、家族がいつでも起きてきてあたれるようにしたくをする。朝の掃除も一とおり終わると、食事にする。
■夕―湯盛りうどんとおつゆ、山東菜の漬物
十二月になると、午後三時ごろにはもう日が山に入ってしまうので、四時ごろにはようめし(夕飯)のしたくにかかる。
ようめしはほうとうと決まっているが、とくに寒い日やお客さんが見えたときなどは、湯盛りうどんをつくる。うどんはメリケン粉に塩を入れてでっち、ほうとうより少し厚くのし、切ってゆでる。ゆであげたうどんに、大根のせん切りやゆでた山東菜を混ぜて大皿に盛り、おつゆにつけて食べる。野菜を混ぜるとさっぱりしておいしい。おつゆは醤油汁で、実はたまねぎをよく入れる。お辛味からみ(薬味)は、ねぎを細かく切ったもの、青のり、かつ節をけずったものを小皿に盛り、好きなものをおつゆに入れて食べる。
寒い日のようめしのうどんやほうとうはからだ中が温まり、なによりのごちそうである。
写真:冬の夜の湯盛りうどん
うどん(山東菜、大根入り)、おつゆ(たまねぎ入り)、お辛味(ねぎ、青のり、かつ節のけずったもの)、山東菜の漬物
出典:福島義明 他編. 日本の食生活全集 19巻『聞き書 山梨の食事』. 農山漁村文化協会, 1990, p.72-74