聞き書 秋田の食事 奥羽山系(田沢湖)の食より
冬が厳しいだけに、奥羽山系に春がくると、人々の顔は喜びにあふれる。豊作を祈っての種播き、畑作業の合い間に、山菜とりがはじまる。
■さまざまな山菜
雪の消えた下から、ばっきゃ(ふきのとう)、かたんこ(かたくり)が芽を出す。ばっきゃは雪を掘ってもとれる。これをいろりの火で少し焼いてすり鉢に入れ、ましぎり(味噌すり棒)でよくすりつぶして味噌を加え、ばっきゃ味噌というなめ味噌をつくる。これで温かいごはんを食べる。かたんこはゆでて、ひたしものやあえものにする。ほろ苦いばっきゃ、甘みのあるかたんこは、山村にまっ先に春を告げてくれる。
気候がよくなると、わらび、ぜんまい、みず(うわばみそう)、ふき、ひろっこ(のびる)、こごみ(くさそてつ)、うるい(ぎぼうし)、しゅんでこ(しおで)、ほんな(やぶれがさ)、山うど、しどけ(もみじがさ)、あざみなど、大変豊富になり、どの家でも総出で山菜とりに出かける。雪深い山麓では春が短く、山菜が急速にのびるので、やわらかく香りがよい。このあたりの人は、山野の草の名や、その食べ方をよく知っており、食べられる山菜、野草は八〇種にも及ぶ。そのうえ、たとえばみつぱ(みつばぜり)一つをとっても、ゆでてひたしもの、煮つけ、三杯酢、汁の実、卵とじ、てんぷらのほか、ごま、くるみ、からしとのあえものなど、いろいろに調理する。
ぜんまいは雪崩の多い急勾配の湿気の多いところに生えるというように、みんながそれぞれの山菜の自生地もよく心得ている。
春から夏にかけては山菜の種類も多く、ほうれんそう、しゅんぎくなどの畑野菜の出来が悪くとも、少しも苦にならない。
たくさんとれたふき、わらび、うど、みずさく(えぞにゅう)などは塩漬にするほか、ぜんまいは干したもの二貫を自家用として保存する。また、さびた(のりうつぎ)は葉をこき、ゆでて干す。これも、一日とって干し葉で一貫目、また干しわらびは二貫目も蓄えるなど、冬の食料として備える。山菜とりは、山の幸としてしゅんのものを味わうほか、やがてくる長い冬に備える仕事でもある。
写真:ぜんまいをよくもんで干す
出典:藤田秀司 他編. 日本の食生活全集 5巻『聞き書 秋田の食事』. 農山漁村文化協会, 1986, p.289-291