聞き書 長野の食事 西山の食より
お彼岸がすぎると、南斜面の雪も解け、家族総出で麦踏みをする。
ついでに、畑一面まっ青に根を張ったはこべやなずななどの草取りをする。一方、畑のくろ(まわり)にあるかず(こうぞ=紙の原料)伐りをし、部落にある共同の大釜でかず煮をする。煮たかずの皮は、むいて干す。干しあがったものは町へ売りに行き、お金に換える。春一番の収入である。このお金が、四月二十一日の春祭りの小遣いになるのである。
これとあわせて桑畑の手入れがある。じゃがいもやお菜、きゅうりなどの種播きもする。
麦のさく(土寄せ)が終わると、大麦の間へ大豆を、小麦のうね間に小豆を植える。粘土の固い土なので棒で穴をあけ、そこへ大豆や小豆を入れていく。
春から秋にかけては、朝飯前の作業もする。男は畑や田の仕事、家まわりの片づけや仕事のだんどり、そして女も、ほかに朝食の準備をする人がいれば、男の人たちと一緒に働く。
朝食を食べ、野良仕事に入るが、遠くの畑へ行くときは弁当持ちで、たいていはせんべいやおやきを持って行く。畑で食べれば、その場でちょっと横になって昼寝ができる。昼寝は「彼岸から彼岸まで」といい、日の長い間はつい働きすぎるので、その睡眠不足を補う。
このころにはわらびやふきのとう、せり、のびろ(のびる)などが出るが、野良仕事が忙しくてとりに行くひまがない。子どもがとりに行ってくれたり、仕事が間に合った人たちが、山へわらびをとりに行くくらいである。畑のくろにあるのびろやせり、ふきのとうやふきなどを家への帰りぎわにとって、おかずの足しにする。
■夜
割り飯が一口と、おぶっこ。おぶっこだけの晩もある。また、おつめりやおやきになったりもする。
春はだんだん日が長くなり、おなかがすくので、豆炒りやにらせんべい(小麦粉にきざんだにらを混ぜて焼く)のおやつを食べる。あわやきびのあられなども食べる。
写真:春の夕食
割り飯、おぶっこ
出典:向山雅重 他編. 日本の食生活全集 20巻『聞き書 長野の食事』. 農山漁村文化協会, 1986, p.254-256