聞き書 石川の食事 金沢商家の食より
朝は潟からしじみ貝、夕方は大野や金石の港から刺網いわしを天びん棒にかついで、おなご衆がふり売りに回ってくる。いわしは生きのいいことが身上で、すぐなれて(鮮度が落ちて)しまうので、新鮮さを保つため、浜の砂がまっ黒になるほどついたまま運ばれる。
豊漁のときは「いわしがとれると米屋がひまになる」というほどで、脂ののったことことの(丸々と太った)いわしが二銭で一〇ぴきほど買える。いわしは新しいうちに、塩焼きに塩煎り、ぬたにでんがく、ふかしにしてだんご汁にと、素早く料理してしまうのも主婦の腕の見せどころである。
■夜―白飯、いわしのふかし、口細かれいの煮つけ、はつなのごまあえ、しじみ貝のめぬきとねぎの煮つけ、漬物
ごはんは夜新しく炊くので、たけのこがあるときはたけのこ飯を炊く。お汁は、いわしのふかしにしたり、かわはぎ、しじみ貝、川ぎす(はぜ)、あまだい、たいを入れたり、うぐいすなやはつなを浮かしたり、野菜や揚げの入っためった汁にしたりなど、素材を豊富に使ってつくる。
おかずは必ず三品はつくる。口細かれいやかわはぎ、赤ら、さばの煮つけ、あまだい、たい、さば、いわしの塩焼き、にんじん、大根、れんこんの煮もの、しじみ貝のめぬき(身ぬき)とねぎの煮つけ、きんぴら、おから(具を入れて炒ったもの)、茶わん蒸し、川ぎすのてんぷら、はつなやうぐいすなのごまあえ、はつな、またはうぐいすなと揚げの煮もの、うぐいすなのおひたし、毛がにの酢のもの、大根とにんじんの酢あえなどをそのときに応じて組み合わせる。漬物はたくわんか大根の浅漬である。
写真:春の夕食
上:しじみの貝のめぬきとねぎのぬた、かれいの煮つけ/中:たくわん、はつなのごまあえ/下:白飯、いわしのふかし
出典:守田良子 他編. 日本の食生活全集 17巻『聞き書 石川の食事』. 農山漁村文化協会, 1988, p.22-24