いわしが豊富な春の食卓―日常の食生活

連載日本の食生活全集

2022年03月31日

聞き書 石川食事 金沢商家の食より

朝は潟からしじみ貝、夕方は大野や金石の港から刺網いわしを天びん棒にかついで、おなご衆がふり売りに回ってくる。いわしは生きのいいことが身上で、すぐなれて(鮮度が落ちて)しまうので、新鮮さを保つため、浜の砂がまっ黒になるほどついたまま運ばれる。
豊漁のときは「いわしがとれると米屋がひまになる」というほどで、脂ののったことことの(丸々と太った)いわしが二銭で一〇ぴきほど買える。いわしは新しいうちに、塩焼きに塩煎り、ぬたにでんがく、ふかしにしてだんご汁にと、素早く料理してしまうのも主婦の腕の見せどころである。
夜―白飯、いわしのふかし、口細かれいの煮つけ、はつなのごまあえ、しじみ貝のめぬきとねぎの煮つけ、漬物
ごはんは夜新しく炊くので、たけのこがあるときはたけのこ飯を炊く。お汁は、いわしのふかしにしたり、かわはぎ、しじみ貝、川ぎす(はぜ)、あまだい、たいを入れたり、うぐいすなやはつなを浮かしたり、野菜や揚げの入っためった汁にしたりなど、素材を豊富に使ってつくる。
おかずは必ず三品はつくる。口細かれいやかわはぎ、赤ら、さばの煮つけ、あまだい、たい、さば、いわしの塩焼き、にんじん、大根、れんこんの煮もの、しじみ貝のめぬき(身ぬき)とねぎの煮つけ、きんぴら、おから(具を入れて炒ったもの)、茶わん蒸し、川ぎすのてんぷら、はつなやうぐいすなのごまあえ、はつな、またはうぐいすなと揚げの煮もの、うぐいすなのおひたし、毛がにの酢のもの、大根とにんじんの酢あえなどをそのときに応じて組み合わせる。漬物はたくわんか大根の浅漬である。

写真:春の夕食
上:しじみの貝のめぬきとねぎのぬた、かれいの煮つけ/中:たくわん、はつなのごまあえ/下:白飯、いわしのふかし

 

出典:守田良子 他編. 日本の食生活全集 17巻『聞き書 石川の食事』. 農山漁村文化協会, 1988, p.22-24

関連書籍詳細

日本の食生活全集17『聞き書 石川の食事』

守田良子 他編
定価3,038円 (税込)
ISBN:9784540880094
発行日:1988/6
出版:農山漁村文化協会(農文協)
判型/頁数:A5 384頁

四季折々の素材をこまやかな味わいに仕上げる古都・金沢の食、焼畑からの雑穀、山菜、木の実、熊など獣が食卓をにぎわす白山麓の食など「加賀百万石」の地の多彩な食の数々。
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