聞き書 栃木の食事 鬼怒川流域(上河内)の食より
田植えは稲刈りが一度に重ならないように時期をずらしてするが、春田(一毛田)の田植えは大田植えといって、人を頼み盛大に行なう。朝五時に集まってもらい、朝飯をふるまうので、田植えの前夜は板の間にぞうきんをかけ、朝飯に出す塩引きを竹ぐしにさし、いろりのまわりにさしておく。
当日の朝、主婦は午前三時に起き、塩引きを焼き、白米飯を炊く。一人一人の膳に白米飯、おつけ、塩引き、こうこを盛りつける。田植えのこうこは、必ずたくわんと決まっているので、田植えまで重石をきつくしておく。
六時には田に入り、苗とりがはじまる。九時ごろにははやばやとおひるになる。おひるには、山弁当を野良でにぎやかに食べる。赤飯に田植え魚といわれる身欠きにしんを味噌で煮たにしん味噌、なんきん(いんげん豆)の甘煮、生揚げを三角に切った煮つけ、たくわん、それに、ふだんは水を飲むが、田植えには、お茶を添える。
午後二時半には二度びるになる。このときは、腹の足しになるように、ぼためし(ぼたもち)か五目飯にたくわんにする。
五時には田植えも終わり、家に引きあげる。酒をつけ、煮魚やうどんをふるまう。この日ばかりは主婦も手打ちうどんを打つひまもなく、乾めんにすることが多い。
写真:山弁当(田植えの昼食)
上:たくわん、生揚げの煮つけ、/下:にしん味噌、なんきんの甘煮、赤飯。お茶を添える。
出典:君塚正義 他編. 日本の食生活全集 9巻『聞き書 栃木の食事』. 農山漁村文化協会, 1988, p.29-31