聞き書 山梨の食事 甲府盆地の食より
六月は農作業の最盛期になる。上旬から中旬にかけては春蚕の上蔟、菜種の収穫、田んぼのあぜ塗り、代かきと続き、中旬から下旬にかけては大豆や小豆の播種、それがすめばいよいよ田植えと、手の抜くことのできない農作業が重なる。猫の手も借りたいほどの忙しさである。
岡さんの家では、五月初旬から九月いっぱいで春蚕五〇貫、夏蚕一五貫、秋蚕三〇貫ぐらい収繭する。その間に、田植え、田の草取り、水田の水の管理などがある。
とくに上村では、水田の用水には苦労し、夜水をひいたり、一日三回以上は水の見張りに回らなければならない。干ばつの年は水不足で田植えが遅れ、雨乞い行事を部落で行なうこともある。夏は暑さと農作業との戦いである。
夜の明けるのを待って田畑に出て、朝づくり(お茶のこ前の野良仕事)をひと仕事したところで、お茶のこを七時ごろ食べ、再び農作業にかかる。一〇時ごろになると、おなけえりという軽い食事をして、どんを合図にお昼飯、一休みして午後の仕事、三時すぎにおようだけを食べる。日が暮れて八時ころにやっと夕飯と、一日五回ごはんを食べて激しい労働を夜おそくまでこなすのはこのころからである。
■おなけえり―おにぎり、味噌漬
おなけえりは、お茶のこと昼飯の間に食べる。おにぎりは梅漬を入れた日の丸おにぎり、それに味噌の仕込みのとき、塩漬のなすや大根を塩出しして漬けこんでおいた味噌漬を添える。
■おようだけ―おにぎり、味噌漬
昼飯後は一休みするが、とくに土用前後の暑さの厳しいときは、日ざしのやわらぐ三時ごろまで昼寝をして、野良仕事をはじめる前に、おようだけを食べてから午後の仕事にかかる。
写真:おなけえりとおようだけに食べるおにぎりと味噌漬
出典:福島義明 他編. 日本の食生活全集 19巻『聞き書 山梨の食事』. 農山漁村文化協会, 1990, p.28-30