聞き書 神奈川の食事 小田原(片浦)海岸の食より
片浦海岸では、古くから部落自営のぶり、あじ、さば漁を行なっていたが、定置網漁の規模が大きくなるにつれ、漁業は村の人々の手をはなれ、昭和初期には片浦村民の多くはみかん栽培に従事するようになった。それでも、日本一のぶりの水揚げを誇る米神漁場を持つこの地帯では、網元から配給されたり、漁師から直接非常に安く手に入る魚が、食生活を豊かにしている。毎日くりひろげられる漁の手間(手伝い)をしてもらってくる魚は、食べたり貯蔵するばかりでなく、売ることによって経済的にもうるおいをもたらしている。
貝や海草などの磯ものは自家消費量ていどを時季にとるが、これも大いに食卓をにぎわしてくれる。
■海草の利用と料理
▼てんぐさ 浜に打ち上げられることもあるが、夏場、男に潜ってとってきてもらう。根府川や江ノ浦では、三重から来た潜り専門の人に権利を貸すこともある。
てんぐさはもとは赤い海草である。真水で洗い乾燥させ、雨に打たれしているうちに、さらされて白くなる。これを保存しておく。何年でも保存はきくというが、やはり古いものは腰がないような気がする。おもに夏のおこじはん(間食)として、ところてんにして食べる。ところてん突きで突いて酢醤油で食べる人もいるが、松本家では、さいころに切ってあん蜜、蜜豆で食べるほうが好みである。
写真:てんぐさ(右上)と、ところてん
出典:遠藤登 他. 日本の食生活全集 14巻『聞き書 神奈川の食事』. 農山漁村文化協会, 1992, p.275-278