かしきり

連載日本の食生活全集

2022年11月16日

聞き書 高知の食事 県西山間(梼原)の食より


かしの実は、かなり古くから高知県山間部一帯で救荒食糧とされていたことが、二代藩主山内忠義が家臣にあてた寛永二十年、寛文九年の文書によって明らかにされている。それがどのようにして食べられたかはよくわからないが、いま「かしきり」として残っているのは、県東部安芸郡、香美郡の山間部である。
これは、あらかしの実の渋を抜いて粉にし、水を加えて煮たものを固めたもので、味噌ぬたをかけて食べる。「かし豆腐」「かしきり豆腐」「どんぐり豆腐」などとも呼ばれる。
あらかしの実は、十月末、ちょうどしいの実が笑い出したころ(殻に割れ目がでてきたころ)に、かなり遠くの山までひろいに行く。かしの木は良質の木炭の原木として伐られるので、集落の近くでは簡単には実をひろえない。ひろってきた実は洗って乾燥させ、そうけ(ざる)に入れて保存する。
かしきりのつくり方は、あらかしの実を箕に入れて日にあて、外皮がはじけて中の実がのぞける(見える)ようになるまで干す。これを木臼に入れて軽くこなして外皮を実からはずし、唐箕に入れて外皮をふるい落とす。残った実を水につけ、まだ残っている外皮を浮かして除く。
外皮をとった実を石臼で粗くひき、木綿袋に入れて二昼夜、流水にさらして渋を抜く。
渋抜きした実を再び石臼で細かくひく。これを釜に入れ、果実一升に水一升三合を加えて煮つめる。煮つめ加減は、杓子ですくった煮汁がぽっちん、ぽっちん落ちるぐらいがよい。煮つまった液は木型に流し入れて固める。三、四時間すると固まるので、適当に切り分け、味噌ぬたをかけて食べる。
味噌ぬたは、にんにくの葉を細かくきざんですり鉢ですりつぶし、これに味噌、ゆのす、砂糖を加えてすり合わせる。
畑山村栃ノ木の小松家では、かしきりを正月や祭りに必ずつくるが、冬の間日常のおかずにもする。また、実をたくさんひろってきたときには、間食にしたりもする。
手間ひまかけてつくるかしきりは、口当たりがなめらかで独特の味をもっている。

 

出典:松崎淳子 他編. 日本の食生活全集 39巻『聞き書 高知の食事』. 農山漁村文化協会, 1986, p.166-166

関連書籍詳細

日本の食生活全集39『聞き書 高知の食事』

松崎淳子 他編
定価3,850円 (税込)
ISBN:9784540860256
発行日:1986/6
出版:農山漁村文化協会(農文協)
判型/頁数:A5判上製 384頁

酢料理は日本一、豪快な皿鉢料理など土佐の伝統食は南国の香りがいっぱい。その他、山の民俗の宝庫といわれる高知山間の土の香りのする料理の数々を紹介する。
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