冬―北風が吹きはじめると藍玉出荷、商談に活気づく

連載日本の食生活全集

2023年01月19日

聞き書  徳島の食事 徳島・藍商人と町場の暮らしより

徳島市周辺の冬は暖かいが、それでも十二月の声をきくと北風が吹きはじめ、雪をみることもある。
藍商たちは、このころ景気よく玉搗きをはじめる。秋に仕上げられたすくもを木臼に入れ、藍砂(小松島の根井の砂が最良とされる)を混ぜて一人一臼で搗く。上物に清酒を吹きつける。搗き終えると四角に切って乾燥させて藍玉に仕上げる。幕末から明治のころには、諸国の問屋や仲買いが徳島城下の藍大市(品評会)に集まり、その接待で城下の色街もにぎわった。また藍商たちの屋敷にも藍玉買いつけの商人がやってきて、三木家でも十一月から十二月上旬は、商いごとの最盛期である。
正月には官界の役人をはじめ、小作人、銀行や三木商店の染料、薬品関係の人など、たくさんの年始の客を迎えるので、手落ちのないよう心くばりをして、家族も下の者も緊張の一か月をすごす。
藍の取引きは三月ごろまで盛んに行なわれる。
熱いけんちゃんととれたてのいわしのぬた―日常の食生活
夕―白飯、とろろ汁、けんちゃん、いわしのぬた、漬物
とろろは、やまいもをすりおろし、澄まし汁を少しずつ加えてすりのばす。けんちゃん(けんちん汁)は、大根、にんじんのせん切り、つかみつぶした豆腐などを油で炒め、かつお節のだしと醤油で味つけする。青味にねぎを加える。いわしのぬたは、新鮮ないわしの頭と内臓、骨を手でとり、濃い塩水につけてから水洗いし、酢をひたひたに加え、少しの砂糖と赤味噌を溶き入れ、きざみねぎを上にのせる。漬物は自家製たくわんである。
ときどき母の妹が来て、オムレツとかコロッケなどをしてくれる。珍しくておいしい。

写真:冬の夕食
けんちゃん、いわしのぬた、たくわん、白飯、とろろ汁

 

出典:立石一 他編. 日本の食生活全集 36巻『聞き書 徳島の食事』. 農山漁村文化協会, 1990, p.320-322

関連書籍詳細

日本の食生活全集36『聞き書 徳島の食事』

立石一 他編
定価3,850円 (税込)
ISBN:9784540900075
発行日:1990/10
出版:農山漁村文化協会(農文協)
判型/頁数:A5 384頁

祖谷そばにたらいうどん、いろりのそばで香りたつでこまわし。渦潮にもまれて育つ魚やわかめ。海・山のバラエティ豊かな暮らしと食を祭事とともに再現。藍商人の食事も再現。
田舎の本屋で購入

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